ロング・グッドバイ (Raymond Chandler Collection)ロング・グッドバイ (Raymond Chandler Collection)
(2009/03/06)
レイモンド・チャンドラー

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私立探偵フィリップ・マーロウは、ロールズロイス・シルバー・レイスの車中で酔いつぶれた男、テリー・レノックスを拾う。酔っぱらいながらも礼儀正しく、白髪で顔には幾筋もの傷跡が残る風体。なんとかアパートメントに送り届けるが、再会は路上で、浮浪者然とした姿だった。

テリー・レノックスは富豪の娘シルヴィアを妻に持っていた。妻との関係に倦みながらも、やがてよりを戻してしまう。あり余る富に囲まれていながら、どこか暗い蔭を宿しているレノックス。何度か会って杯を重ねるうち、互いに友情を覚えはじめた二人。しかし、やがてレノックスは妻が惨殺死体となっているのを発見する。真実を告げぬまま、マーロウの手引きでメキシコへと逃亡を図る。しかし殺しの容疑をかけられた果てに、告白書を遺し、自殺を遂げてしまうのだ。新聞をにぎわすのに格好の材料でありながら、被疑者死亡のまま、審判もなく事件は葬られた。

成り行きに釈然とせぬマーロウのもとに一件の依頼が舞い込んできた。
アル中の有名小説家ロジャー・ウェイドの行方を探してほしいというのだ。ロジャーの心を蝕んでいるのは何なのか。美しい妻がその内面に飼っているのはどんな獣なのか。富に彩られながらも満たされない人々の孤独が生み出す物語。
2009.07.04 
龍臥亭事件龍臥亭事件
(1998/08)
島田 荘司

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御手洗潔が日本を去って一年半。取り残された石岡は鬱々とした生活を送っていたのだが、そのアパートを二宮佳世という女性が訪れた。自分に憑いた悪霊を払うために、岡山県の山奥まで同行してほしいというのだ。彼女の信頼する霊能力者によると、山の中の大きな樹の下に埋まっている人間の手首を掘り出せば、悪霊が払われるという。懇願され、石岡は佳世とともに岡山への飛行機に乗り込む。
霊に導かれるように寂しい駅で下車した二人が山を越え、辿り着いたのは、今は営業をしていない龍臥亭と呼ばれる旅荘だった。疲れ果てた石岡たちは一夜の宿を乞うのだが、館の主は意地悪くそれを拒む。問答を続けているうちに夜気を震わす大きな音が鳴り響いた。それが連続密室殺人の幕開けだった。

ガラス張りの密室で、琴の演奏中に突然額を弾丸に撃ち抜かれる女性。密室で仏壇に向かっているときに、すぐ隣に人がいたにも関わらず頭を撃たれる女性。いずれも使用された弾は1930年代の古いものだが、部屋には何の仕掛けもなく、弾丸の通ったあともない。犯人が逃げおおせた時間的空間的空白もない。超常的な事件ではあるが、龍臥亭の住人達が見せる表情にはそれだけではない怯えが垣間見える。60年近く昔の因縁が彼らをまだ捉えて離さないのだ。
2009.06.30 
水の眠り 灰の夢 (文春文庫)水の眠り 灰の夢 (文春文庫)
(1998/10)
桐野 夏生

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昭和38年、東京オリンピックを一年後に控えた日本は高度成長期を迎え、激動の時代にあった。トップ屋と呼ばれる男たちにも変遷が訪れていた。
週刊誌記者・村野善三は地下鉄爆破事件に遭遇する。当時、世間を騒がせていた爆弾魔・草加三郎の犯行とみて、調査を開始。「他紙を抜く」ことに命を燃やす村野だが、恩人の遠山だけでなく、朋友の後藤までもがトップ屋稼業から足を洗うことを知り、週刊誌の一つの時代の終わりを感じていた。

草加次郎を追ううち、吉永小百合へ現金を要求する脅迫状が送られており、警察が大捜査網を張り巡らせることをつかんだ村野。草加次郎は果たして現れるのか。様々な情報網を駆使して取材を続けていたが、ひょんなことから知り合った睡眠薬中毒の女子高生・タキが、遺体となって発見され、殺人容疑をかけられてしまう。
身の潔白を証明するため、タキの身辺を洗い始めるが、タキの兄に不穏な空気を感じた村野の中に、ある疑念が生まれてきた・・・。

村野ミロの養父、村野善三を主人公に据えたシリーズ外作品。単品でも読める。
草加次郎事件、女子高生殺人事件。一見無関係の二つの事件だが、そこに横たわる醜い欲望は源を同じくしていたということであろうか。クライマックスは少々肩すかしではあった。実際の事件をベースにした物語の、限界を見せつけられた気がした。しかし人物の描写はやはりうまいのである。随所に散りばめられた時代を感じさせる小道具がちょっとうざい(アイビーとか
2009.06.02 
町長選挙町長選挙
(2006/04)
奥田 英朗

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「オーナー」「アンポンマン」「カリスマ稼業」
シリーズ三冊目。今回は趣向が変わって実在する人物をモデルにした登場人物を相手に、伊良部の破天荒な治療(?)が行われる。
閉所・暗所を恐れる球団オーナー。(渡邉恒雄風)
ひらがなが書けなくなったIT社長。(堀江貴文風)
アンチエイジングにとりつかれた女優。(黒木瞳風)

このシリーズの面白さは伊良部の言動の子供っぽさにあった。思ったことは無責任に何でも言ってしまう。思いついたことは無謀にも何でもやってしまう。小さな子供がふと発した言葉が真理を衝くことがある。それをメタボなおっさんがやってしまう。患者は驚き、呆れかえり、しかし気がつくのだ。自分の心の底にあった歪みに。そうア二マルセラピーと同じなのだ。
本作の有名人をモデルにした3作ではその点でパワーダウンが否めない。医者が患者に食われてしまった感じ。時事ネタとして気楽に楽しめればいいと思う。しかし時代は移りかわっているのではあるが。
「町長選挙」は東京都内でありながら見離された小島で行われる壮絶な選挙戦争に、否応なく巻き込まれた青年を主人公にした物語。金銭や恫喝が飛び交う無法地帯で、板挟みになり、にっちもさっちもいかなくなった宮崎は、派遣されてきた医師・伊良部に期待をかけるのだが・・・。
2009.05.24 
ねたあとにねたあとに
(2009/02/06)
長嶋 有

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ナガヤマコモローの山荘には、夏になると涼を求めて、さまざまな友人が訪れる。近隣に娯楽もなく、テレビもきちんと映らず、携帯電話の電波も危うく、虫やネズミが徘徊する山荘。湿気をたっぷり吸った布団に、開け立てのままならないサッシ。家電品は古道具屋を営むコモローの父、ヤツオおじさんが持ち込んだ年代物の売れ残り。
そんな山荘に集まった大人たちが、真夏にコタツに入って、興じる遊びとは・・・。ケイバ、顔、それはなんでしょう、軍人将棋。ナガヤマ家オリジナルの「遊び」はどれも一度は試してみたくなるようなシロモノだ。

小説の舞台は『ジャージの二人』そのままで、同じくバカ犬のチャロも名前だけだが登場する。ほとんど私小説といっていい域で、「オーエ賞」受賞に関するエピソードもある。知らなかったのだが、『夕子ちゃんの近道』で第一回大江健三郎賞を受賞されていたらしい。ちなみに私個人の評価は低い。
本作はコモローの仕事仲間であり、友人でもある久呂子さんの視点から描かれている。他にもミュージシャンや作家が登場するが、どれも実在の人物らしい。作中にでてくるブログ「ムシバム」は著者が実際に運営しており、(本当に虫の写真ばかりが載っている。)そちらを読めばリンクする部分もある。
ただ、久呂子さんだけは本当に黒子なのではないだろうか。私小説を読み物に昇華させるための、というかツッコミとしての役回り。シュールな子供っぽい感覚的な笑いを成り立たせるには、やはりそういった役割が必要だろう。そうでなければ、物真似をしたり、虫を見つけてデジカメを取りに走るコモローがその時何を考えているかなんて、興ざめだもの。
事件も恋愛沙汰もなく、ひたすら大人たちが「遊んでいる」日常を描いているのだが、奇妙に面白い作品だった。
2009.05.24