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『ミステリークロック』 貴志 祐介

4041044502ミステリークロック
貴志 祐介
KADOKAWA 2017-10-20

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泥棒鍵屋・榎本径シリーズ。
『ゆるやかな殺人』
マンションの一室にしつらえられた組事務所に、一発の銃声が響いた。
中から施錠されているため、呼ばれた榎本がビビりながら解錠すると、部屋には舎弟のミツオの銃殺死体。
床に転がっているのはグロック17。
自殺かのように見えた状況だが、銃口を咥えるのではなく、口から少し離して発射した様子なのがおかしい。
黒いボール紙の細片、ミツオがアル中だった事実、ミツオに最後に会ったという野々垣から漂ってきたアルコール臭。
それらの状況から、榎本は野々垣による他殺だと看破する。

タイトルは「飲酒はゆるやかな自殺」と言われることから。
死に方が間抜けすぎて、ミツオ可哀想。
ていうか、アレをそんな使い方したことない、と思った。

『鏡の国の殺人』
美術館の二階で館長の撲殺死体が発見された。
一階は特別展の準備作業が行われていたが、外部からの訪問者はなかった。
内部の人間の犯行には違いないが、監視カメラには二階に上がる犯人の姿は映されていない。
事件当夜、たまたま泥棒に入っていた榎本の侵入経路が天窓からだったため、必然的に彼が第一容疑者となる。
館長からの依頼で、セキュリティの甘さを示すために侵入した榎本は、嵌められたと気が付く。
榎本は、弁護士の青砥純子に依頼して、調査をはじめる。

トリックは、専門知識がないと解けません。
説明されて、あーそうですか知らんがな、となる。
ルイス・キャロルの専門家、萵苣根功(チシャネコウ)さんの喋りが面白い。
ほとんどギャグ回ですね。

『ミステリークロック』
人気ミステリー作家、森怜子の作家三十周年パーティに招かれた榎本と青砥。
その山荘は電気も来ていない山奥だが、数々の時計が飾られていた。
中座した怜子がコーヒーに入っていた毒によって死亡した為、犯人探しが始まる。

トリックは、専門知識がないと解けません。
説明されて、あーそうですか、謎解きは読み飛ばしたくなる。
さりげなく『悪の教典』をディスってるの笑った。

『コロッサスの鉤爪』
海洋資源の開発を目指して飽和潜水が行われていた実験船うなばら。
深度300メートルの海底で、潜水服の蓬莱弘明は静かに決意を固めていた。
そしてうなばらから直線で200メートルの海上。
ゴムボートで海釣りに興じていた布袋悠一は、突然の衝撃に見舞われた。
うなばらではパッシブソナーによって海中の音をモニターしていたが、その瞬間、布袋のボートに近づいたスクリュー音はなく、大量の泡が発生したことを検知。
布袋は海中に引きずり込まれ、溺死した。
体には、サメによる咬傷のほかに、見たことのない鋸歯状の傷が残されていた。

表題作はこれにすべきでしたね。
トリックは、専門知識がないと解けませんが、情景の描写も登場人物の告白も染みました。
発端となった事件については、そんな理由で人を殺すかな?という疑問点は残りますが。
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『黒冷水』 羽田 圭介

4309015891黒冷水
羽田 圭介
河出書房新社 2003-11-22

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三歳年上の兄の部屋をあさっては、エロ雑誌やエロ動画を盗み見る修平。
部屋をあさられていることに、薄々気が付いていた兄の正気は、あさりの証拠を得て、トラップを仕掛けるのだが、互いの攻防は徐々にエスカレートしていく。
正気は、なぜ弟にここまでの嫌悪感を抱くのかと疑問を抱きつつも、関係性が回復されることはない。
破壊盗撮流血、そして・・・。


兄弟版「ローズ家の戦争」なのねーという感覚で、楽しく読み進める。
子ども(当時17歳)が書いているから、黒冷水って命名が唐突だったり、会話で意図が汲めない部分もある。
とくに正気という名前が読みにくい。(ショウキと読んでしまう)
とはいえ、充分商業的に通用するレベル。
文章力がある人は、十代でも備わってるんだろうな。
無理があるのは、弟がヤク中だと家族は同情される、みたいな論理。
身内に犯罪者がいたら、どうしたって肩身は狭いです。
不仲な兄弟は、親族に人間性を疑われるという考えを持ってるのに、犯罪者は受け入れられるだろうとか、おかしくないか。
作者の都合で理屈こねてんなーという感じ。
その辺の稚拙さはラストの展開(実は創作だった)で、納得させられるが、やはり言い訳っぽい。
特に兄弟愛に目覚めて、変な盛り上がりをみせるシーンは、思春期特有の痛々しさ。
最後の一行は要なんだから、もっと自然な流れで見せてほしかった。
人間の本音としては共感を抱く(ふつうは抱かないかもしれない)のだけど、そこに至る経緯(過剰な暴力のシーン)がわざとらしかった。

余談だが、ヤク中描写のある本作で、引用された曲が偶然、チャゲアスのヒット曲だったのが、皮肉というか何というか。うん。笑った。

『琥珀のまたたき』 小川 洋子

4062196654琥珀のまたたき
小川 洋子
講談社 2015-09-10

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「今日を限り、前の名前は忘れましょうね」

厳しい表情でママが言ったのは、それまで住んでいた家を引き払い、昔パパが使っていた別荘へ引っ越した時だった。
4人きょうだいの末妹は、野良犬に頬を舐められた翌日から熱を出し、あっという間に死んでしまった。
お医者さんには肺炎だと言われたが、ママは魔犬のせいだと決めつけた。
ママは野良犬を蹴り殺し、残った三人を守るため、引越して禁止事項を定めたのだ。
塀の外に出てはいけない、話し声は囁くように、前の名前を一度でも口にしたら、頬っぺたを内側から茨の棘が刺すことになる。
新しい名前はパパが残した『こども理科図巻』の中から選ばれた。
姉はオパール、二番目の子は琥珀、末っ子は瑪瑙と。
ママは子供たちの服を飾り立てる。
オパールのブラウスには羽根を縫い付け、頭にはフェルトの王冠を。
琥珀にはカーテンを割いて作った尻尾、幼い瑪瑙の尻尾は毛糸玉、ビニール紐で作ったたてがみ。
三人は、パパの書斎の図鑑で学び、壊れたオルガンに合わせて小声で歌い、互いの空白を埋めるように寄り添って眠った。
塀の中に来たとき十一歳だったオパールは、弟たちに外の世界の物語を聞かせる。
瑪瑙は囁く声でいくらでも歌うことができた。
琥珀は、徐々に変質していく左目のまたたきの中に、魔犬に奪われた末妹の姿を見る。
彼は図鑑の余白に、1ページ1ページその姿を写し取っていく。



子どもたちの目線で語られると、その暮らしはおとぎ話のようだが、塀の外側から見ると、ひどくグロテスクな世界。
狂気に育まれる無垢とでもいおうか。
外界との接触を絶たれた精神が、それでも成長を止めないでいるさまは、力強く、獰猛でさえある。
矯められた樹木の根っこが地べたを割って伸びていく激烈さが、人の中にもある、のか。

『コクーン』 葉真中 顕

4334911242コクーン
葉真中 顕
光文社 2016-10-18

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1ファクトリー――2010
アダルトグッズ工場で夜勤をこなす木村真弓は、体力の限界を感じていた。
同じ姿勢が続く立ち仕事は、深刻な神経痛をもたらす。
パートという立場に将来の不安を感じていたところ、同僚の中国人の楊さんに新しい仕事を紹介される。
ある病院の看護助手の仕事で、給料も雇用形態も申し分ない。
半信半疑で面接を受けると、すぐに採用となった。
主な仕事は入院患者の介護だが、食事はすべてゼリー食のため、介助の必要はなく、他には点滴の更新、清拭、おむつ交換くらい。
見舞客は誰一人訪れず、亡くなった患者の遺体は、保冷庫に重なり合って保管される。
そこはホームレスを預かる行路病院だったのだ。
仕事は楽だが、疲労は積み重なっていく。
ある日新たに入院してきた患者の名前を見て、真弓は驚く。
卯藤カナ―――カルト教団『シンラ智慧の会の教祖、天堂光翅の母親だったのだ。
十五年前、白装束に身を包んだ6人のシンラ信者が、丸の内で無差別乱射事件を起こした。
その事件の犠牲者の一人が、真弓の五歳の息子・一也だったのだ。
息子を殺した男の母親が、ホームレスとなり、自分の目の前に横たわっている。
真弓は唐突な怒りを覚え、卯藤カナの細い首に手を伸ばした・・・。

2シークレットベース――2011
月島の行路病院で目覚めた三枝宏道は、ベッドを抜け出し、新幹線で宮城に向かう。
ネットで知り合った人たちと自殺を決行するためだ。
道すがら思い出すのは、小学生のころ転校してきたマンザイのことだ。
西の言葉をしゃべり、自分と同じように父親がおらず、インバイノコと迫害されていた友達。
俺たちはあの頃、一緒に人殺しの計画を練ったのだった。

3サブマージド――2012
「野々口勲さんのご家族の方でしょうか」
八年前に別れたきり、行方の知れなかった兄の遺体が見つかったと、奈都のもとに警察から連絡が入った。
一年前の震災のおりに、津波に呑まれた車内から、死蝋化した状態で発見されたのだと言う。
丸の内で無差別乱射事件を起こしたシンラの信者だった兄。
乱射事件には関与していなかったが、修行中に死亡した女性をミキサーで粉砕し、遺棄した容疑で逮捕された。
マスコミに追われ、両親は無理心中、姉は離縁され、残された家族は引っ越しを余儀なくされた。
兄の遺体を引き取るため、姉の反対を押し切って、奈都は宮城に向かう。
孤独だったらしい兄のアパートで、遺品整理をして見つけたのは、PCにブックマークされた姉が運営するNPO法人のサイト。
それから、他人名義のキャッシュカード三枚と、どこのものかわからない鍵三本。
それらが意味するものは・・・。

4パラダイス・ロスト――2013
幼い日、迷子になって泣いていた少年に、当時は珍しかった洋菓子を与えてくれた通りすがりの妊婦がいた。
その味は、少年にとって忘れがたいものとなった。
少年は成長し、菓子職人になるため、熊本から家出同然で上京した。
洋菓子店で研鑽を積み、恋をして、家族を持ち、仕事もうまくいっていた。
妻が自然食品の店に通いつめ始めるまでは。
その店は、新興宗教シンラの運営する勧誘窓口になっていたのだ。



以下、ネタバレ感想。



1995年3月20日宗教団体による無差別乱射事件――某宗教団体のテロ事件を想起させるが、現実の事件よりも悲愴感が足りねぇ、と思っていたら、ラストに向けての仕掛けだったらしい。
新興宗教に満州、行路病院、東日本大震災とあれこれつまみ食いしつつの連作集(といっていいのかどうか)が、落としどころを間違ったような。
いきなりそんなメタな構造を押し付けられても・・・というのが正直な感想。

『仮釈放』 吉村 昭

4101117292仮釈放 (新潮文庫)
吉村 昭
新潮社 1991-11-28

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高校教師の菊谷は、不貞を働いた妻を刺殺し、相手の男の家に火を放ち、老婆を焼死させた。
無期刑という判決をうけはしたが、自分のとった行為には必然性があり、悔いはない、と考えていた。
服役を不当に感じ、投げやりになっていたが、八年ほど経過した頃、心境に変化が生じた。
塀の外の自由な生活を意識しはじめ、仮釈放を期待し、受刑者規則を忠実に守ることを自分に課した。
国語教師であった菊谷は、印刷工場の校正を担当し、熱心に行った。
累進処遇によって昇進し、独居房を使うことを許されるほどになっていた。
そして判決から十六年後、念願の仮釈放を果たす。
まずは貨幣価値の変化に面喰い、行動規則も指図する者もいない時間に戸惑い、保護司を親のように頼りにしていたが、住まいを得、仕事に就き、徐々に社会復帰を果たしていく。
今もって殺した妻への懺悔の気持ちはなく、やむを得ないことであったという考えが消えることはなかったが、保護司の前で真情を吐露することはなかった。
更生はなったと判断され、伴侶として女性を紹介された菊谷は、新たな結婚生活を始める。
妻となった豊子は、菊谷の過去については承知していたが、無期刑の者は生涯保護観察が解かれることがないとは知らなかった。
恩赦を受けるために、被害者への謝意を示すことを促すのだが・・・


数々の作品を生み出すために、吉村氏は受刑者や保護司への取材を重ねてこられたはずだ。
本作はフィクションであり、特定の個人をモデルに描いたものではないが、罪を犯した者たちの中に見え隠れする人間の業を小説として昇華させたものではないだろうか。
菊谷は社会的役割を果たすことに疑問を感じない人生を送ってきており、服役中にも模範囚たりえた。
妻の不貞を目の当たりにしなければ、犯罪者になることはなかったように思う。
平穏だった人生を唐突に破壊したのは妻の方で、そのような妻は当然排除すべき存在だった。
回想される殺人の場面で、菊谷は冷静に、職人仕事のように庖丁をふるう。
視界を朱に染めながらも、激情や興奮はそこにはない。
独善的な正義を執行する男がただそこにいたというだけ。
目に見えて凶悪な人間が殺人者になるわけではない。
“その時”になってみなければ、人が殺人者たリえるかどうかは分からないとさえ思えてくる。
ただ、そういう人間は存在する、という現実だけが提示された。
そして、人間の本質は変わらない。
菊谷の保護司への態度は、甘えと媚びであり、そこに卑しさを見た気がした。
プロフィール

小日向 ゆう

Author:小日向 ゆう
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