![]() | 葬列 (2000/05) 小川 勝己 商品詳細を見る |

障害者の夫との生活は、愛に満ちている。それを糧に、逃れようのない貧困からは眼をそらすように日々を送っていた明日美。夫にも子供にも見捨てられたしのぶは、そんな明日美に強盗をもちかける。執拗なしのぶの誘いに辟易していた明日美だが、たまたま居合わせた銀行強盗の現場で、渚という風変わりな女に助けられる。互いに連絡先を教えあった明日美としのぶと渚。そして実は渚こそ、銀行強盗の下見に来ていたのだと聞かされる。
女たちの計画が始まる。
九條組組員の木島は冴えないヤクザだ。普段はリース会社の社員としておしぼりの配達をしている。妻には逃げられ、娘のももこと二人暮らし。料理も裁縫も編みものもこなす。学生時代の先輩に引きずられるようにヤクザの道に入ったが、気弱で頼りない風貌はとても極道には見えない。ただ銃器の取り扱いだけは徹底的に仕込まれていた。そんな木島に鉄砲玉の命令が下された。知識はあるものの人を撃ったことなどない木島。標的を前に思わぬアクシデントで逃げ出してしまう。しかしなぜか目標の殺害は行われ、自らも命を狙われることになる。自分がはめられたことに気がついた木島は、ありったけの銃器を携えて、復讐に向かうのだが、そこで明日美と木島を結んでいたかすかな糸が、偶然の再会から強く絡まり始める。金と復讐にとり憑かれた4人が計画したのは、九條組組長の別荘の襲撃と金庫の中身の強奪だ。
このあらすじを読んで「面白そう!」と思う人がいるだろうか?疑問である。
伏線が張られてはいるが、謎を謎として提示しないままに、「ほらこれ気がつかなかったでしょう?」と言われても困るんである。池上家殺害事件に彼らが関与していないことを匂わせるくだりは、何よりも必要だったのではないか。
そして人物描写に一貫性がない。街金強盗でへまばかりしていた木島が、別荘襲撃ではいい動きを見せる。頭の悪そうだったしのぶも後半は普通の人っぽい。しのぶを毛嫌いしていた明日美の変心も、説得力がない。
構成が下手で時間経過がわかりにくい。木島が逃走生活に入ってから、明日美と再会するまでにどれだけの時間が経っているのか。矢野の出所までにあと半月と述べている点から、1週間も経っていないと思うのだけど、その間によりにもよって彼女はあのアパートに移り住んだわけ?大したご都合主義だ。
ヤクザの勢力図の記述が長々とされているが、必要性を感じない。もともと大長編だったのを後から削ったのだろう(憶測)が、もう少し全体のバランスを考えるべき。
どこからどうみても桐野夏生の『OUT』と同じである。もちろん力量の差は否めない。本作で最も語られるべきは渚だったはずだが、彼女視点の文章は少ない。描く力がなかったのではないか、と思わずにいられない。
2009.10.28 ▲
![]() | まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫) (2009/01/09) 三浦 しをん 商品詳細を見る |




東京郊外に位置するまほろ市で便利屋を営む多田啓介。正月三日からバスの間引き運行調査のため、極寒のバス停に張り込んでいた。そこで出会ってしまったのは高校時代の同級生、行天春彦。在学中、ただの一言も言葉を発しない変人として有名だった男だが、再会した行天は生まれ変わったようによくしゃべった。そしてなぜか帰る家がないので泊めてほしいという。
なしくずしに始まった男二人の共同生活。舞い込んでくる依頼は穏当な顔を見せて、時にキナ臭い状況に一変する。
望むかたちで得られない愛情に、心を閉ざした小学生。
失いかけた友情を取り戻すため、口を閉ざす女子高生。
産院で取り違えられ、他人の家で育ってしまったサラリーマンが今求めるものは。
そしてこれは過去に大切な物を失い、あるいは得られなかった多田と行天の物語でもある。
構成に優れているわけでもなく、人物描写も漫画的。そこそこキャラは立っているのだが、リアリティを度外視していいというのなら、それは難しいことではないはず。文章は下手ではないと思うが、バランスの悪い人だなと感じた。読み返しても、なぜそんな流れになるのかわからない部分がある。
行天という不思議な生き物の生態を楽しむ読みものであって、それ以上でも以下でもないように思う。
手軽に読める楽しい本って評価が最適かな。
最後に。直木賞受賞作と知って驚きました。
直木賞はライトノベルも対象にするようになったんだなぁ。
2009.09.27 ▲
![]() | チェーン・ポイズン (2008/10/30) 本多 孝好 商品詳細を見る |




彼女がその本を手にしたのは、偶然であり、必然だった。たまたま本屋で目線の高さに並んでいたから。著者が自分と同じ名を持っていたから。
高野悦子著「二十歳の原点」
40年前、自ら死を選んだ著者のつづった日記には孤独と未来への絶望しかなかった。36歳になる彼女が見据えているのも、孤独と絶望的な未来でしかなかった。普通に過ごせば無視されて、甘さを見せればつけ込こまれ、弱さを見せれば突き放される。それが彼女の知っている世界だった。
もう死にたい。
そう呟いたとき、スーツ姿のその人は現れた。
「どうせ死ぬなら一年待ちませんか?」
生命保険に入り、死亡保険のおりる一年後まで待つ。その代わり、一年頑張ったご褒美に、眠るように楽に死ねる手段を差し上げます。彼女はその日から仕事を辞め、一年後の約束の日を焦がれるようになる。しかし暇つぶしに始めたボランティアで出会った児童養護施設の子供たちとの出会いが、彼女に未来を見せ始めていく。
週刊誌記者の原田はインタヴューをした二人の人物の服毒自殺に疑問を抱いていた。突発性難聴に侵された若き天才バイオリニストの如月、十二年前に幼い娘と妻を無残に殺害された被害者遺族のの持田。しかし如月は発病から一年半後、持田は加害者の死刑執行から一年一ヶ月後に服毒自殺を図っているのだ。なぜ自殺の原因となる事態から時間をおいて死んだのか、なぜ二人ともアルカロイド系の毒物による自殺なのか。そこに元OLの服毒自殺の一報が入る。彼女もまたアルカロイド系毒物による自殺であるという。三人の死に繋がりはあるのか?有名人だった他の二人と違って、無名の元OLの自殺の原因は一体何だったのか、そして自殺に至るまでの時間は?
彼女の名は高野章子。原田は彼女についての調査を始めるのだった。
一年後の安らかな死へと向かう女性からの視点と、亡くなった女性の足取りを追う週刊誌記者の視点とが交互に描かれる。前者はヒューマンドラマの様相で、後者は宮部みゆきの『火車』を踏襲したような具合。私はどちらも楽しんで読めた。邪心なく読まれた方は作者のトリックに驚かされるでしょう(あたしは邪心まみれなので・・・)
映像化すると面白いだろう。
原田が訪ねた緩和ケア病棟の院長が自殺について話すとき、こう言います。
「誰もが一人分の孤独を抱えており、そんなものに重いも軽いもない。一人分の孤独になら耐えられる。そういう耐性を人間は備えているはずです。」
「では、絶望は?」
原田の頭に、家族を殺されだけでなく、加害者の弁護団に妻子を貶められた持田と、音を失ったバイオリニストの顔が浮かぶ。
軽いため息とともに院長はこう答える。
「私に言わせれば、贅沢なフィクションです」
何もかもを小綺麗に片づけてしまわない、本多孝好が私は結構好きだ。
2009.09.18 ▲
![]() | 記号を喰う魔女 (講談社ノベルス) (2000/05) 浦賀 和宏 商品詳細を見る |



「じゃあ、これから俺、死ぬから」
そう告げた渡辺に安藤は答えた。
「さよなら」
そして彼は、飛んだ。
渡辺のことを好きだった坂本は自殺の原因は安藤にあると責め、校内で彼女を誹謗することを躊躇わなかった。人殺しで、男に春を鬻ぎ、父親とも寝ている、と。安藤を想う小林は苦々しく感じていた。
そんなとき、渡辺が遺言を遺していたことが知らされた。
「僕が死んだ時、居合わせた人間達を僕が生まれたあの島に向かわせてください」
不穏な雰囲気のまま孤島を訪れた5人の中学生。出迎えてくれたのは渡辺の叔父夫婦とその友人たちだった。豪華な夕食が供され、食べたことのない肉料理に舌鼓を打つ小林達。何事もなく孤島の一日が過ぎたかと思われた翌朝、操船技術を持つ唯一の人物が遺体となって発見された。通信手段も絶たれ、島には嵐が訪れる。そして次々に起こる殺人事件。死体には、全て「逆さV」の記号が残されていた。
誰が敵で誰が味方なのか。島には狂気が満ちていく。
カニバリズム物。ペダンチックな語りはちょっと詰め込みすぎの説得力無さ過ぎ。まともな人間が一人もいないっていうのがいいですね。
2009.09.09 ▲
![]() | さよなら、愛しい人 (2009/04/15) レイモンド・チャンドラー 商品詳細を見る |



刑務所から出所したばかりの大男、へら鹿(ムース)マロイは、八年前に別れた恋人ヴェルマを探し、黒人街の酒場にやってきた。しかし、そこで衝動的に殺人を犯してしまう。偶然、現場に居合わせた私立探偵フィリップ・マーロウは、行方をくらましたマロイと女を探し始める。時を同じくして一件の依頼が舞い込む。ホールドアップ強盗に奪われた、翡翠を買い戻す際のボディガードを頼まれたのだ。金を持って指示された場所に向かうが強盗は現れず、諦めて帰ろうとしたその時、後頭部に一撃をくらい、気を失ってしまう。意識を取り戻すとそこには依頼主の無残な遺体が転がっていた。
旧訳では「さらば愛しき女よ」でした。確かにイマドキ「さらば」はないだろうけど、「愛しい人」ってのもどうなんだろう。もう原題のまま使えばよかったじゃんって思います。
ストーリーはちょっときついものでした。偶然に頼りすぎです。書き込むべきところを書きこめばもっと面白くなる可能性は大。ヴェルマとムースのエピソードがもっとしっかりしていれば、と思いました。(そうすればタイトルが生きてくる)
しかし人物描写は素晴らしい。実に巧い作家ですね。
2009.09.09 ▲






