![]() | ラジ&ピース (2008/07/31) 絲山 秋子 商品詳細を見る |



野枝は自分の容姿に過剰なコンプレックスを持っている。
そのこと自体が過剰な自己愛の表れではないか、と思ったりもする。
たったひとり付き合った男とのことを今でも想起することがある。
東京に生まれながら、あえて地方の放送局を選び、ラジオのパーソナリティをやっている。
仙台から群馬に越してきた野枝は、相変わらず新しい会社になじまない。
スタジオ内でなら心地よく流れ出てくる偽りの言葉たち。
人を受け入れない自分はからっぽの冷蔵庫によく似ている。
何を詰め込んでも、やがて腐って捨てられていくだけ。
でもあるときふと気づく。
いつも電波に乗せて、声を飛ばしているつもりだったけれど、本当はみんなの声がここに集まり、この場を形成しているのだ、と。
エアステーションにリスナーたちが集い、ラジオネームに命が宿る。
野枝を変えていくのは人との出会いだ。
焼き鳥屋で出会った沢音という女医。
沢音は妙に人懐っこい。野枝の不機嫌をものともしない。
そんな沢音をいぶかしみながらもそれが不快ではなくなっていく。
そしてそれまではありえなかった、リスナーに個人的に会うことを自分に許してしまう。
気のいい妻帯者の男に案内されて、週末は観光に出かける。
土地や他者に対する興味のなかった野枝が変わりはじめる。
「うつくすま ふぐすま」
ナカノカナ。回文を名前に持つ女性が自分と同じ名の女性に出会う。
もう一人の中野さんはエビを研究している素敵な女性。
自転車に乗れない中野さんの自転車を買いに付き添ったり、乗る練習に付き合ったり、二人は仲良くなっていく。
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![]() | エスケイプ/アブセント (2006/12) 絲山 秋子 商品詳細を見る |





「どっかで暴動でも起きないかなー」
七四年、三菱重工爆破事件に興奮を覚えた少年は、大学でセクトにはまり込み、二十年間職業革命家をやっていた。
でも9・11テロで気がついちゃうんだ。
自分がラディカルでもなんでもないことに。
なんだったんだ二十年。魂の無駄遣いってやつ?
そんで目が覚めた。おれはおれの余生を生きることにする。
だから妹のところへ行く。妹は念願叶って託児所を始めることになった。
おれは子供は好きなんだ。おむつ交換も見事にこなすし。おれにできる仕事があるはずだ。
それまで一週間の猶予がある。
旅に出よう。いわば卒業旅行だ。
そうして江崎正臣は急行銀河に乗りこむ。行き先は、大阪。
京都で、途中下車。
そうだ。京都には「あいつ」がいたんだ・・
そこで二十年探していた幻のレコード、ロバート・クインとジョディ・ハリスの「エスケイプ」を、レコ屋で偶然見つけるのだが、ヨハネパウロみたいなカッコの西洋坊主に先を越されてしまう。
その怪しい西洋坊主バンジャマンに誘われて、教会で一緒にレコードを聴き、落胆し、こんなものを捜し求めていた二十年って・・・で、なんとなく教会に居候することになる。
バンジャマンは見た目以外は全然神父らしくない。
教会は長屋だし、床の間に十字架やマリア像がいっぱい、顔は外人なのにフランス語は喋れず、日本語ペラペラ。
ミサには近所のばあさん連中がいっぱいやってくる。
正臣は神に祈る。
「もしもあんたが信用に値するなら、おれにだって頼みたいことはある。でもそれがわかんねーから、ぐだぐだ言ってるだけだ」
二十年の無為に気付き、宇宙空間に放り出されたような感覚の中。
今やっと現実の時間に追いつこうとしながら、掴みきれない。
キリスト教にとっては、キリストの不在の方が大きい。
では正臣にとっての不在とは?
「あいつ」はいない。いないけど、、
彼の祈りは神への問いかけだ。
神父もまた祈る。
彼は欠落を抱え、偽りを重ね、それを詫びるために祈る。
神を愛するという行為は、あるいは究極の自己愛ではないか、と私は思った。
そして正臣のこの祈りの言葉がいつまでも心に残る。
「悪いな、おれは必死だよ。でも必死って祈ることに少しは似てないか。」
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![]() | ニート 絲山 秋子 (2005/10/29) 角川書店 この商品の詳細を見る |
『ニート』
久しぶりに友人のブログを開いたら、彼は困窮の至りだった。
仕事を辞めて以来、働く気をなくし、ひきこもりがちになり、街金に手を出し、食事もろくにとれず、光熱費の支払いも危うかった。
私がまだ無職の物書き志望だったころ、彼と知り合い、二人でよく安酒を飲み、部屋に出入りし、セックスをした。
私が書くことで生活できるようになった今、久しぶりに彼にメールを送る。
食事に誘い、そして2年ぶりの彼の衰弱を目にする。
彼の食はすっかり細くなっていた。
私は彼に金の話を持ち出す。納得しない彼から口座番号を聞きだし、金を貸す。
翌日彼からお礼のメールが来る。
私は今度食事をしよう、そして旅行に行こうと返信をする。
彼に金を貸すことで失うものはないと思っていたけれど、確実に失くしたものがある。
例えば彼とは当分寝ない。寝たら彼は私のヒモみたいになってしまうだろう。
彼を愛しているような気もする。でも先の事は分からない。
ただ彼に金を貸すと決めたとき、私も彼の人生という責任を負ったのだ。
☆
これは好きだ。
人の人生を背負うってことの意味が分かっている人だ。
感銘。
作中では『キミ』と手紙のような二人称が使われている。
最初違和感があったが、慣れれば悪くない。
『ベル・エポック』
婚約者を突然の病で亡くした友人が、三重の実家に帰るというので引越しを手伝いに来た。
荷造りを手伝いながら、亡くなった婚約者の話をしたり、彼女の田舎の様子を尋ねる。
彼女は田舎にある秘密の湧き水の話を聞かせてくれる。
荷造りを終え、引越屋が荷物を運び出した後、最後に一つだけ残しておいたダンボールの中を何となく覗いた。
最後に使った食器のほかに新しい雑巾やトイレットペーパが一巻入っている。
そして私は気付いてしまう。
彼女は実家に帰らない。
☆
よく意味の分からない話であった。
ここに容易に纏められてしまうストーリーであるし。
だから何?って感じ。
『2+1』
これは『ニート』の続編。
またしても生命の危機に陥った彼を、私は自分の部屋に住まわせることにする。
ただし私は女友達とルームシェアしている立場で、その友人とも生活していくうちに険悪になっており、まったく口を利かない状態ではあった。
友人には置手紙で断りをいれ、彼との共同生活が始まる。
彼は私のベッドで眠り、貸してやったパソコンをいじり、ご飯や酒を振舞ってもらう生活。
私は原稿を書いたり、原作料をとり立てる電話を掛けたりする生活。
仕事に疲れた私は幸せそうに眠る彼の寝顔に腹立たしさを覚え、一緒に布団に潜り込んでしまう。
そしてなしくずしにセックス。
同居人との「男を連れ込まない」という決まりごとを破ったうえ、肉体関係も持ってしまうのだ。
彼を救いたいという思いと保護するごとに彼から搾取しているという自覚を抱えながら、共同生活を送る。
そしてついに彼は実家に帰ることになった。
彼を好きだという想いが、自分のなかで大きくなっていてのは自覚するけれど、やがてそれが消えていくことも分かっている。
そして彼は帰っていった。。
そして同居人もまた、この部屋を去ることを告げてくるのだった。
☆
うまく表現できないが、嫌いではない。
人と人の関係にお金という負荷がかかることによって、バランスが崩れてしまう様子が目に浮かぶ。
ルームシェアしていた友人との冷え切ったやり取りも読んでいてこわい。
『へたれ』
恋人の松岡さんと正月を共に過ごすため、僕は東京から新幹線に乗る。
道々、僕が回想するのは3人の女性である。
一人が松岡さん、一人は幼い頃に母を亡くした僕を育ててくれた母の従姉妹の笙子さん、そして家を出て行ってしまった妻のあゆみ。
妻のあゆみは僕の中ではすでに小さい出来事のようだ。
妻が出て行ったことを松岡さんには話したが、笙子さんには話していない。
ホテルマンの僕が正月に休みが取れるのは稀なことだ。
僕が松岡さんと過ごすことを知ったら、笙子さんはどう思うだろうか。
笙子さんの料理はとても不味かった。
松岡さんの料理はミンチを使ったものが多い。
僕は名古屋駅で新幹線を降りてしまう。
僕は笙子さんに引き取られてから、名古屋で育った。
笙子さんはひとりで正月を過ごすだろう。
きしめん屋で食券を買い、きしめんを食べ、店を出て、立ち尽くす。
僕は松岡さんに初めての嘘をつくのだろうか。
☆
途中、主人公が子供の頃暗記するほど読んだという、草野心平の詩が挿入されている。
「ごびらっぷの独白」というカエル語の詩だ。
日本語訳も付いている。
独特の雰囲気で単調なストーリーのいいスパイスになっている。
『愛なんていらねー』
これはスカトロだった・・・orz
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![]() | ダーティ・ワーク 絲山 秋子 (2007/04) 集英社 この商品の詳細を見る |
『worried about you』
ギタリストの熊井望はつまらない賭けに負けて、健康診断を受ける羽目になる。
そして思いもよらず『要再検査』の通知を受け取ってしまった。
言い知れぬ不安を抱え、検査に赴くのをためらいつつ、思い出すのは昔バンドを組んでいたTTのことだった。
自分の愚かな行為で喪ってしまった大切な関係。
TTのことを心配しながら、本当は自分が誰かに心配して欲しいのではないかと思わせる。
そういうのってなんだか分かる気がする。
望は最後には再検査に行くのだけれど、医師の診断はまるで福音のように聞こえたよ。
『sympathy for the devil』
恋人との付き合いに必然性を感じなくなり始めていた倦怠期の貴子は
義姉に相談を持ちかける。
貴子が愚痴るのは、ありがちな男女間の歪み。
いつだって男はいい加減で、女はそれに怒る。まるで役割分担のように。
義姉はそれにアドバイスをするでもなく、ある例え話をする。
その話から、兄と義姉の関係についてある可能性に思い至ってしまう。
文体が若い女のちゃらい話言葉で書かれており不快。
ストーリー自体もだから何?という感じ。
これは必要な話か?
『moonlight mile』
昔一度だけ寝てその直後にふられた女性から突然「会いに来て欲しい」とメールが来た。
悪性リンパ腫に侵されて入院し、余命幾許もないという彼女が、今さらなぜ?と思いながらも、遠井は夜の街を車を飛ばす。
この話は好き。
牛みたいな女が激痛を伴う発作に苦しむ様が、快感に喘いでいるように見えるなんて、なかなか書けないのではないのだろうか。
そういえば、妊婦が出産の折には色っぽいとは読んだことがあるか。
なんにしろ好き。
他4作
『before they make me run』
『miss you』
『back to zero』
『beast of burden』
連作短編集である。
共通の人物がそれぞれのストーリーに現れ、リンクする。
しかしそれが一体なんだというのだ。
完成度にムラがある。
こんなん俺でも書けるわい、と思ってしまう短編がちらほら。
たくさんの方がレビューに賞賛の意を表している。
スマンがおれにはわからん!
ちなみにタイトルはストーンズのアルバムから取られているのだそうだ。
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![]() | 沖で待つ 絲山 秋子 (2006/02/23) 文藝春秋 この商品の詳細を見る |
2作収録
『勤労感謝の日』
『沖で待つ』
女性総合職を主人公にした作品。
『勤労感謝の日』
勤労感謝の日って何だ?
理不尽なトラブルで会社を辞めた恭子にとって、それは得体の知れない、腹立たしくもある一日である。
そんな勤労感謝の日に近所の長谷川さんに勧められ、36歳無職の恭子は見合いをすることになった。
すごい相手だった。
何しろ紫色のコーデュロイのジャケットに黄緑色の靴下だ。
そして第一声が「スリーサイズ教えてくれますか」
すげー(゚Д゚)
さらにすごい描写が続くのだが自主規制。
恭子は見合いを中座してしまうのだ。
家に帰るわけにも行かず、クリスマスの飾り付けに怒り、バスのアナウンスに怒りしながら、
後輩のゆかりを呼び出す。
そうして語り合われるのは女の本音だろうか。
女性総合職として仕事に生きてきた女達の本音?
仕事の意義とか考えたことがないから分からないな。
こういう人種がいるのだろう。
ただの愚痴としか思えんが。
笑わせてはくれるのだが、少々露悪的なところもあり。
シみるような話ではなかった。
『沖で待つ』
死んだ同期の太っちゃんとの約束を守るため、及川は彼の部屋に侵入する。
死んだらお互いのHDDを壊すこと、と生前取り決めていたのだ。
ゴム手袋をはめ、工具を並べ、パソコンを分解していく。
弁当箱のようなHDDが現れ、さらにフタを開けようとしているうちにまるで
太っちゃんの“死”に触れているような感慨に囚われていく・・・
同期の桜かよ?
HDDに治まった互いの秘密がくだらないものだったのだが、現実にはこんなものかもしれない。
でも、もっと劇的なものを期待してしまっていたのだ。
だってこれらはフィクションだろう?
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