![]() | メタボラ (2007/05/08) 桐野 夏生 商品詳細を見る |





僕の記憶の始まりは闇に包まれた森の中。
僕は何かから逃げようと無様に怯えながら走っている。
「ココニイテハイケナイ」
ただその言葉だけが頭の中を駆け巡っている。
突然森は途絶え、アスファルトの道路に転げ落ちる。
途方に暮れていた暗い道の途中で出会った男は昭光(アキンツ)と名乗り、彼もまた「脱走」の途中だった。
宮古島で育った昭光は本島に憧れ、「独立塾」に入ることを条件に島を出た。
しかし規律正しい生活が早々に嫌になった彼は真夜中の脱走を試みたのだった。
そして自らも名乗ろうとした僕は愕然とする。
名前が思い出せないのだ。
着の身着のまま、記憶すら持たない僕は、能天気な昭光に「ギンジ」という飼い犬の名をもらい、二人の旅が始まる。
一晩かけて下山し、行き着いたコンビニのバイト店員磯村ミカに拾われた僕とアキンツ。
アキンツはまだ十代だが整った顔立ちでミカを虜にする。
僕はといえば、ミカのルームメイトの手前、ミカの弟という役割をもらい、おかげで磯村という苗字を手に入れた。
しかしルームメイトとのトラブルに巻き込まれ、そこすらも逃げ出さざるを得なくなる。
不安を抱えながらも、それぞれが見つけた行き先へ。
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![]() | アンボス・ムンドス 桐野 夏生 (2005/10/14) 文藝春秋 この商品の詳細を見る |
『植林』
デブでチビで根暗な真希はコンプレックスの塊だ。
化粧品や医薬品の量販店にアルバイトをしており、友達も少ないし、彼氏もいない。
家の中では兄夫婦に遠慮して居場所がない。
ないないづくしの真希だが、ある日TVのワイドショーで流れた音声を
聴いて、幼い頃の記憶が蘇った。
かのグリコ・森永事件で犯人が使った録音だが、真希自身にその文章を読まされた記憶があったのだ。
当時小学3年生、真希は同じマンションに住む女性の部屋に遊びにいき、件の文章を乞われるがまま読み、それを録音された。
過去の有名な未解決事件に自分も関与していたことに真希は興奮する。
真希は歪んだ自信を手に入れ、その日から生まれ変わったように快活になる。
そしてそれまで避けていた小学校のクラス会にも赴くのだが、そこで女性の部屋での出来事を補足する記憶を呼び覚まされることになる。
自分の記憶と周りの人々の認識との差異に翻弄され、混乱し、ついには身の内に沈殿した悪意を吐き出すかのように、悪意を連鎖させる真希。
それは“悪意の排泄”とも云える不快さである。
『アンボス・ムンドス』
夏休みに一生で一度の思い出として、示し合わせてキューバ旅行に出た若い小学校の女教師とその不倫相手である教頭。
旅から戻ってきた夢心地の二人を待ちかまえていたのは、担当クラスの女生徒たちの山での遭難、そして一人の少女の死だった。
ふたりの不倫関係は白日のものとなり、容赦ない周囲から非難の嵐に晒されることになる。
恋人と会えないことを悔やみつつも女教師は、生徒の死に疑問を抱く。
仲が悪かったはずの女の子グループがなぜ共に山に出掛けたのか。
しかし、罪悪感に苛まれながら、生き残った女生徒たちを問い詰めることはできなかった。
すべては策略だったのか。
本当のターゲットは誰だったのか。
曖昧なまま時は過ぎてしまう。
物語は独白形式で語られる。
そして女教師は真実を確かめる術を持っており、その意志を露にした時点で物語は幕を閉じる。
『ルビー』
ホームレスの男が拾ったルビー・モレノ似の女。
帰る家がない彼女はやすやすとホームレスの男たちに身をゆだねる。
それにショックを受ける男。
そんだけの話。
『怪物たちの夜会』
不倫相手の煮え切らない態度に切羽詰った女は、ついに相手の家まで押しかけてしまう。
不倫相手の妻とその家族に追い返され、男に離婚する気がないことを知った女。
ラストは突飛だが、面白みはなく、説得力もない。
『愛ランド』
旅に出た3人の女が、手違いから尖胸術という性感マッサージまがいのエステを受けさせられたのを切っ掛けとして、それぞれ順番に性遍歴を告白していく。
セックス百物語みたいに話が強烈になっていく様が面白い。
最初のひとりが父親との恒常的なセックスを告白して、ほお〜と思っていたら、次の人もスゴイねコレ!って感じ。
『毒童』
お寺に私生児として生まれた女性が奇妙なホームレスの親子と出会い、
義父を殺すための秘策を給わる。
珍しくスーパーナチュラルな能力がスパイスに使われている。
オチは星新一のショートショートみたい(褒めてない
『浮島の森』
佐藤春夫と谷崎潤一郎の間の妻譲渡事件を髣髴とさせる設定。
妻ともに譲られた立場の娘の視点から描いたもので、何が云いたいのかよく分からなかった。
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![]() | 残虐記 桐野 夏生 (2004/02/27) 新潮社 この商品の詳細を見る |
物語は一通の手紙から始まる。
作家:生方景子(ペンネーム小海鳴海)の夫が担当編集者に宛てたものだ。
そこには、妻が失踪したこと、最後に残された原稿『残虐記』について、そして妻が少女の頃巻き込まれた、ある事件について書かれていた。
景子は十歳のときにある男に拉致され、1年もの間監禁される。
結果的には景子は救い出され、男は逮捕されるのだが、物語はそれだけでは終わらない。
知恵遅れがあるらしい、しかしどこかずる賢さのある男ケンジに攫われ、余儀なくされた奇妙な共同生活。
景子を“みっちゃん”と呼びならわし、昼と夜とで態度を一変させる。
昼は景子を性的な対象とし、夜は“小学生の男の子”となり景子のお友達を演じる。
交換日記をしようと云いだしたのもケンジだった。
夜のケンジは優しい気弱な男の子だ。
日記のなかで景子はケンジを責めるような言葉を書く。
ケンジは云い訳をする。
夜だけは、二人の立場は逆転していたように見える。
しかし景子も脱出の希望を捨ててはいなかった。
工場の2階に間借りしているケンジの部屋では、声を上げても機械音でかき消される。
ろくに食事も与えられない生活の中で、景子にとっての唯一の希望は隣の部屋に住むらしいヤタベさんだった。
ヤタベさんに見つけてもらえれば助かる!
しかしその希望はあっけなく砕かれる。
ヤタベさんは聾だったのだ。
絶望にくれていた景子を助けたのは、偶然訪れた工場の社長の奥さんだった。
しかし、奥さんが電話を掛けている間、景子は隣室のヤタベさんの部屋を覗き、そこにある物を見つけてしまう。
ケンジの部屋とを仕切る壁にそれはあった。
覗き穴だ。
実は物語の焦点はこの拉致監禁にはない、と云える。
景子は自分の身に起こったことが理不尽すぎて、その理由を見つけずにいられない。
なぜ?どうして?あれは一体なんだったのか?
解放後の景子の周辺で起こる変化。景子自身の変化。
異物を飲み込んでしまった心がなんとか消化しようと、想像力という消化液で心そのものをいびつに変えてしまっているともいえる。
作中、繰り返し書かれているのは“想像“という言葉だ。
景子は解放後、たくさんの人々の、監禁中にどんな目に遭ったのかという“想像“のシャワーに晒されつづけ、自身もまたケンジの本心、隣人ヤタベとの関係という妄想にその身を浸す。
それは彼女が高校生になって書いた世間を騒がせるに足る内容の小説となって表れる。
景子の妄想が膨らみ、創り出した物。
幼少時のケンジとヤタベさんとの間にあったのだろう性的関係。
そしてそれがケンジの成長と共に別の存在へと転嫁されていく様を描いたものだった。
それらは全て景子の妄想である。たとえ真実をついていたとしても・・・。
想像を巡らし、小説を書くことによって、一旦はカタチ付けたかのように見えるが、
結局思い知るのは、判らない、判りようがない。誰にも理解できるわけがないという現実。
25年経ち、出所していたケンジからの突然の手紙。
景子の失踪はそれに端を発しているのだが、それ以降の景子の行方は読者の想像力に任せられるのだ。
残虐記の最後で景子は告白している。
実は自分とケンジは愛し合っていた、ということ。
自分がケンジを好きになれば、どれだけ楽だろうという“想像”から生まれた愛ではあるが、
間違いなく二人は愛し合っていた。
しかし、それは事実だろうか。
ここは『ホテル・ニューハンプシャー』のフラニーのように、レイプされたという現実の
重みを支えきれず、自ずから受け入れたかのような心理に陥ってしまったようにも読める。
実はこの“残虐記”は作中作であり、実際とは齟齬があるということが、
景子の夫の手紙によって述べられている。
しかしそこにどれだけの意味があるのか。
なぜ?どうして?あれは一体なんだったのか?
私たち読者もまた想像の海を漂わなければならないのだろう。
読むことが、下世話な好奇心を収めるためだとしたら、小説としては実はさして面白くない。
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