2008/07/22 (Tue) 『キュア cure』 田口ランディ

キュア cureキュア cure
(2008/01/11)
田口ランディ

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斐川竜介は大学病院の院生として、ガン病棟で毎日患者の体を切り開いている。
外科手術においては、ゴッドハンドと呼ばれるほどの手腕の持ち主だ。
彼には幼い頃から、特殊な能力があり、外科医となった今、無意識にその力を使っている。
人の発する微細な電磁波をメスで感じ取り、ダウジングのように破壊された細胞を探る。
他人の神経回路に同調して、思考や感情を読み取ることによって、患者に病をもたらすストレスに直に触れる。
長い間投与され続けた多量の化学物質や放射線の影響によって混乱しきった意識。
低下した生体反応。
侵された患者の意識に同調して、それを取り込み、整理して感情情報を戻すスクリーニングの作業。
しかし、彼特有の“治療行為”は彼の肉体も痛めつける。

やがて彼自身も、病に同調したかのように、肝臓がんに侵されてしまう。
初めて“患者”になった彼は自分の求める治療が病院にはないことを思い知らされる。
かといって、宗教にもスピリチュアルなヒーラーにも彼は身を委ねることができない。
人の求めるCURE(治療)とか一体どんなものなのか・・・。

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2006/09/20 (Wed) 『被爆のマリア』を読む

被爆のマリア 被爆のマリア
田口 ランディ (2006/05)
文藝春秋

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収録作
「永遠の火」
「時の川」
「イワガミ」
「被爆のマリア」

「イワガミ」より
作家・羽鳥よう子は取材のため、広島に滞在していた。
貿易センタービルへのテロ、アメリカのアフガン攻撃、バグダッド陥落、
イラクへの自衛隊派遣、そして日本人青年の拉致、殺害・・・
刻々と移り変わる不穏な時代の中、作家である羽鳥は何かをしなければと
思いつつ、何も出来ないでいた。

取材のため、被爆者たちから話を聞き、被爆建物を訪れる。
それらは“ヒロシマ”を書くためでありながら、結局何ひとつ掴みきれず、
被爆者との越えがたい壁を感じるのみだった。
どれだけの悲惨さを聞き、写真や絵を見ようとも、戦後に生まれ、戦争の
悲惨さとは無縁で生きている人間にはわかりようがないのだ。
人の苦しみを聞くなど苦痛でしかない。

   書けない

諦めてヒロシマを去ろうと決めたそのとき、羽鳥は一冊の本と出会う。
  宮野初子著『磐神』
  “イワガミは、はたらきのためにそこに在りました。
   いつからとか、どうしてとか、そういう問いのまえに
   在るべくして在りました。”
このようにして始まる物語は、太古の時代から広島の東北部山頂に在る
らしい“イワガミ”の視点を通して語られる。
それは、まだ人も動物も自然も渾然一体となって存在していたころから
始まる。
まるで神話のように、だ。
たちまちその語り口に魅了されてしまった羽鳥は『磐神』に書かれている
“イワガミ”が実在することを知り、そこを訪れ、触れ、その頂上から広島を
見下ろす。

人々が農耕を始め、異国人が訪れ、町は栄え、しかし争いが起こり・・・
やがて空から邪悪なモノを孕んだ銀色の物体が飛んできて・・・
“イワガミ”にはその邪悪なモノを払うだけの力はない。
だがその代わりに「お使い」であるキツネを遣す。
“イワガミ”に命じられてキツネたちは、焼け逝く人々の魂を浄化せんと
その金色の身を焼かれながらも、焦土を駆け巡る。
生きながら焼かれる者たちの合い間を縫い、呪を凝らす。
もたらすのは、死すべき者たちの最も美しい思い出。
人々が最期に観たのは、自身の美しい思い出だけ・・・
そうして浄化された魂たちは、輝く真珠魂となり、ほうき星のように空を
舞い、穢れた土地を祓っていく。

その作中には原爆の地獄絵図はほとんど描かれていない。
美しい広島の姿だけだ。
宮野初子が愛した美しいヒロシマの姿だけだ。
羽鳥はもう一度被爆者たちと会う。
そして爛れたヒロシマではなく、美しかった広島の姿を尋ねるのだ。

人はヒロシマを語るとき、ともすれば焼け爛れた肌や脂の浮いた異臭を放つ
川面ばかりに目を向けがちである。
しかし時には、清らかにたゆたう水や市に賑わう人々の姿を思い浮かべても
いいのではないだろうか。

【ぉ星様きらきら】
  「イワガミ」に関してのみ云えば、こういう評価になる。
  この作中にもあったのだが、自分がどれだけ感銘を受けた作品でも
  他者が同様に感じるとは限らないものだ。
  それだけ読書とは孤独な作業なのだろう。
  しかし、私のためだけに、私にだけ訴えかけて来る本、というのも
いいものだ。

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