2007/10/01 (Mon) 『リトル・バイ・リトル』を読む 嶋本 理生

リトル・バイ・リトル リトル・バイ・リトル
島本 理生 (2003/01/28)
講談社

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ふみにはユウちゃんという妹がいる。
父親は違い、今は母と3人暮らし。
実の父親とは年に一度、誕生日には会っていたのだが、ふみが中一の年、約束の場所に、ついに父は現れなかった。
それ以来会っていない。幼い頃には虐待も受けていた。それでも血の繋がった親を切り捨てきれない想いがふみの中にある。

高三になったふみが受験勉強の真っ最中、母が2番目の父親と離婚してしまった。そのためふみは進学をいったん見送ることになる。
しかも突然母親の勤める整骨院が潰れてしまい、必然アルバイトをしながらのモラトリアムとなった。

やがて再就職を果たした母のおかげで知り合うことになった市倉周。
周はキックボクシングをやっている一つ年下の男の子である。
互いに好意を抱き、二人の距離は少しずつ縮まっていく。



まぁ、恋愛小説でもあるのだが、主人公の抱えているささやかな困難が主題なのだろうか。
父親に捨てられた記憶は、自己の存在の不確かさが彼女を苛んでいるということか。
また夜スーパーに買い物に行ったシーン。店の前で制服姿の男女が楽しそうに騒いでいるのをぼんやり眺める様子からは、自分が今どこにも属していない、というふわふわとした不安が垣間見える。

こういった類の小説にありがちなように、主人公には友人の影が見えない。
18、19の女の子でありながら、友達に電話をするシーンすらない。
しかし高校時代には友達と夜遊びをしていたとの記述があるのが逆に不自然極まりない。

また人見知りするタイプのようなのに、好みの男の子には実に積極的だ。
初対面からいきなり彼の試合を観に行ってみたいと云ったり、本人の承諾があるからと、名前を呼び捨てにしたり。
そうでなければ話が進まないから、と創り上げたエピソードとしか思えない。

読んでいてこそばゆいのは、もしかしたら彼女の文章が自分のそれと似ているせいかもしれない。
『山盛りのキャベツを前にウサギになったような気がしながら』という記述を読んで過去に自分が書いた一文を思い出した。

『汗をかいた肌はべたつき、カエルになったような気分で・・・』

というものだったと思う。
幼い、若い比喩は他人事とは思えず、居心地が悪い。若手作家の著作を読んで不快になるのは実はこうしたことが一因としてあるのかもしれない。

そしてもうひとつエピソードを挙げておこう。
ふみが通っている習字教室の先生、柳さんは結婚する際、次のような約束を奥さんにさせられる。
「後に残されるのはたまらない。絶対に自分より長く生きてくれ。」
そしてその言葉通り奥さんは先に逝ってしまう。
実はこの奥さんが登場したとき私は、おそらくこの人は死ぬだろうなという予感があった。作者の意図が透けて見えたからだ。
彼女はJ.アーヴィングを読んでいるようだし、突然の死が読者に与える効果を知っているのだろう。残念ながら、筆力では及びもつかなかったが。

葬式の後、心配して訪ねてきたふみに、柳さんは語る。
「どんな言葉でも言ってしまうと魂が宿るんだよ。〜中略〜書いた瞬間から言葉の力は紙の上で生きてくる。そして、書いた本人にもちゃんと影響するんだよ。」

これは作者の望みでもあるのだろう。
使い方を間違わなければ、言葉はとても大きな力を持つのだ。
私もそう信じている。

ともかく、この言葉のために、作者は柳さんの奥さんを登場させ、死なせた。
それは評価に値するだろうか?
いや、書くものは書かれる者をもっと尊重すべきだと私はそう思うね。

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2007/09/11 (Tue) 『シルエット』を読む 島本 理生

シルエット シルエット
島本 理生 (2001/11)
講談社

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『シルエット』
高2のわたしにはせっちゃんという大学生の恋人がいる。
週に数回一人暮らしの部屋に泊まりに行くのが習慣になっており、二人の関係は順調だ。
しかしわたしの心の中にはいまだ冠くんの姿がある。
高1で知り合って付き合い始め、そして別れた彼。

冠くんには秘密があった。
彼の母親は彼が十歳のときに男を作って家出し、数ヵ月後出戻ってきた。
家族の関係は病み、軋み、傾いていく。
ついに父親が母親を刺し逃亡。
寝たきりになった母親と冠くんだけが残された。

幼い頃に母親に生々しい“女”を感じ取ってしまった冠くんは、異性に触れることを恐れた。
彼は女性に嫌悪感を抱いていることを告白する。
母親の介護のときでさえ、手袋を付けずには体に触れられないというのだ。
わたしは彼の依怙地を責め、彼はそれを否定できない。
そして別れ。

喪失感からわたしは夏休みの間、家出をして藤野という大学生の部屋に転がり込む。
そこでセックスに何かを求めるかのような暮らしを続けるのだが、藤野の友人の女性から、彼がいかにスポイルされた人間であるかを聞かされ、逃げるように家に帰る。
そしてせっちゃんに出会い、恋をする。

恋人がいながら、前の彼のことが忘れきれない女心でしょうか。
話運びがぎこちないような気がする。
高校生の書いた物だけあってテーマも幼い。
ラストで冠くんの『気付き』が描かれる。
女たちが求めていたものがやっと彼には分かるのだが、それこそ、人間の心とはそんなに簡単なものじゃない。
求めるものを与えることは、とても難しいことなのだ。

あと、タイトルと内容と何の関係がある?

『脳裏に一瞬だけ姿を見せた衝動だけは〜』って“だけ”が重複してる。見苦しい。

『わたし、今まで他人に合わせることがあまり好きじゃなかった〜中略〜好きな人に合わせるのってちっとも苦痛じゃなく楽しいね』
↑ガキだから云える台詞。

『植物たちの呼吸』
柚子は恋人の江島君の部屋に居候している。
彼の部屋にはたくさんの植物が置いてある。
食事の用意をして待っているのに彼は帰ってこない。
慰みに友人に電話を掛けてみる。
「どこにいると思う?江島君の家。本人は不在だけどね」
友人は不自然な間をおいて穏やかな声で「そう」と答える。

電話を切るが、彼はまだ帰ってこない。
待ちくたびれてベッドに横になると、奇妙な夢を見た。
江島君がバイトからの帰り道で事故に遭い、死んでしまう夢だ。
夢の中で柚子は彼の葬式にも出席する。
そして彼の死んだ後も彼の部屋で帰りを待ち続けるのだ。

汗をかいて目覚める。
彼はまだ帰ってこない。

嫌いじゃないね、これ。
ちょっとホラー仕立てで。

『ヨル』
夜ひとりの家にいるのが辛くて沙夜は町を歩く。
ビデオ屋を冷やかし、古本屋に入る。
そこで偶然黒猫とクラスメートの神谷君に出会う。
神谷君は常にひとりで行動し、『友達なんて面倒くさい、誰かと一緒でないと行動できないのは馬鹿な証拠』と豪語するツワモノだ。
神谷君に話しかけるも無視されて沙夜は泣き出してしまう。
すると彼は黒猫の名を教えてくれ、猫を抱いていてくれないかと持ちかける。
訳も分からず云うとおりにすると、彼は本棚からごっそり文庫本を取り出し、そのまま店外に出てしまう。

青春だね。
何が云いたいのかわからない。
意味がありそうで、実はない、そんな物事に憧れる世代には魅力的なのかもしれない。
私もかつてそうだったように。

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