2008/07/17 (Thu) 『映画篇』 金城一紀

映画篇映画篇
(2007/07)
金城 一紀

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「太陽がいっぱい」
龍一(リョンイル)は子供の頃からクラスの中心にいるような明るい子で、僕はといえば人見知りがひどく、いつも一人でいる子供だった。
しかし映画好きという共通点がふたりをかたく結び付けていた。
「大脱走」に始まり「ドラゴン怒りの鉄拳」「酔拳」・・・
僕たちには父親がいなくて、鬱屈を抱えながら、幼さゆえにそれをさらけ出す事ができなかった。
そんな僕たちが好きなのは父親か両親がいない主人公の映画だった。
つまらない映画に当たった時は、僕たちはいつもそれを面白く作り変えることに専念した。

「太陽がいっぱい」は僕たちを魅了した。
トム・リプリーは貧しく身寄りがないが、才能に溢れ、完全犯罪を目論む。
ただラストでリプリーが警察に捕まってしまうことだけが納得がいかなかった。
僕たちにとっては、映画の主人公が自由を奪われるなんて有り得なかったのだ。
だから僕たちが自分で考えたストーリーのなかでは、リプリーは捕まることはなく、悠々と逃げ延び、あらたな完全犯罪を目論むのだ。

時が流れ、僕が脚本家か小説家になる夢を持って日本人学校に進学したことによって、龍一との付き合いも途絶えた。
僕は製薬会社に入社し、自分の夢のことは片隅に追いやってしまった。
噂によると龍一が良くない仕事に関わっているのは知っていた。
そんな時、突然かかってきた龍一からの電話。
「映画を見に行かないか」
だけど僕は行かなかった。

いつだって僕は龍一のSOSに気づかずにきてしまったのだ。

                ☆

初読では「なんだこれ」が正直な感想。
少年期のノスタルジー?なんだかつまらない。
ラストで主人公が一本の小説のようなものを書き上げるのだが、これがひどい。
陳腐な素人小説じゃないか。
でもこれって人のささやかな願いなんだよね。
そしてささやかだけど、人のもてる最大限のパワーなのだ。
そういう観点で読めば、とても、せつない。


「ドラゴン怒りの鉄拳」
製薬会社に勤める連れ合いが寝室で首を吊った。
それを発見して以来、わたしは寝室に入るのを拒み、暗闇を恐れるようになった。
折りしも連れ合いの勤めていた会社では、薬害訴訟を免れない事件が発覚した。
マスコミの取材に疲れ、連れ合いの上司にも“消えた書類”を探すよう迫られ、ついに電話線を抜き、外出もしなくなった。
ひたすら連れ合いの好んだ本を読み、DVDを観、音楽を聴く。
その作業を終えると、今度は連れ合いの痕跡を洗い流すように、彼が好まなかった本を読み、DVDを観、音楽を聴く。

時を経て、やっと電話線を繋いだとき、かかってきた電話はレンタルビデオ店からだった。
連れ合いが生前借りていたビデオが未返却のままだったらしい。
五ケ月ぶりの外出。
ビデオ店の店員、鳴海はわたしの顔を見て「サービスです」と言ってビデオを貸してくれた。
その真剣にくだらないコメディを見て、自分が久しぶりに笑ったのを思い出した。
そのビデオを返しに行くと鳴海はまた「サービスです」と別のビデオを差し出してくれるのだ。

                ☆

回復の物語。
突然自分の前から去ってしまった連れ合いとの関係に疑問が生まれ、彼の仕事が人の命を奪ったかもしれないという現実に怯え、閉じこもっていたわたし。
そんなわたしに現実と向き合い、闘う覚悟を決める勇気をくれたのは映画であり、鳴海だった。
恋の力と映画のパワー。
誰にでも得られるものでは、ありません。

「恋のためらい/フランキーとジョニー もしくは トゥルーロマンス」
隣席の石岡はあまり学校に来ない。たまに来ても居眠りをしているか本を読んでいる。
僕は学校では仲間はずれだけど、彼女も一人だった。
彼女の強い目が僕は嫌いではなかった。
ほとんど話したこともなかったのに、突然石岡に「ローマの休日」の上映会に誘われた。
そして彼女の現金強奪逃走計画を聞かされる。

                ☆

ラブです、ラブ。
汚い仕事をしているパパを憎む娘と、父親の犯した過ちによって精神の均衡をなくしてしまった少年。
ああ 恋のパワー _| ̄|○

「ペイルライダー」
小学3年生のユウは映画が大好きで、友だちのカメちゃんと夏休みの自由研究では《映画ランキングベスト50》というレポートを作ることになっていた。
しかし肝心のカメちゃんはさっぱりやる気がない。
おかげで夏休みの最終日にギリギリ最後の一本を観る羽目になった。
そんな8月31日。
ユウは同級生の幹島くん(親が暴力団幹部)にからまれているところを黒ずくめのライダーに助けられる。
黒いオートバイが唸りを上げて、幹島くんたちを追い払ってくれたのだ。
どうやらライダーは女性だ。かっこいい!
ライダーがバイクを停め、おもぬろにヘルメットを取るとそこに現れたのは・・・・

パンチパーマでえびす顔のおばちゃんだった。

バイクに魅了されたユウは、おばちゃんの後ろに乗せてもらい、東京湾を望む埠頭まで走りだした。
おばちゃんはとっても優しくて、でも鍛え上げられた肉体は岩のようで、体には大きな火傷の痕があった。

                 ☆

両親の不仲という子供にとっては痛すぎる現実。
でもおばちゃんとの出会いでユウは少し強くなれた。
おばちゃんもまた過去にとても痛い痛い経験をしていた。
それにどう決着をつけるかは、自分しだいだ。
でも彼女はもう逃げないと決めた。だからあれだけ強くなったのだろう。

おばちゃんのバイクに刻まれた《C・E 32》《Y・E 8》という文字。
たぶん夫と子供のイニシャルと年齢なのだろう。
それが明らかになることはなかったが。

「愛の泉」
鳥越家のおじいちゃんが死んでから、おばあちゃんはめっきり元気をなくしてしまった。
おばあちゃんのもつ「だいじょうぶオーラ」が消えかかっているのだ。
五人の孫たちは以前のおばあちゃんを取り戻すべく、策を練る。
二十二歳の律子姉ちゃんはすでに鳥越家のゴッドファーザーの貫禄を備えた、才色兼備。
二十歳の僕は律子姉ちゃんと同じ大学に通う大学生。
同い年のかおるとはなぜか馬が合わずにいつもケンカばかりだ。
十七歳のリカは控え目でおとなしく、親戚じゃなかったら、ちょっかいを出してしまいたくなるタイプだ。
リカの四歳下の弟ケン坊はいたずら好きのやんちゃ坊主。姉と大違いのアホの子。

そんな僕たちが考えぬいて練り上げたミッションがこれだ。

おばあちゃんがおじいちゃんとの初デートで見た映画の上映会を僕たちの力で実現してしまおう!

律子姉ちゃんに無理やりプロデューサー役を押し付けられた僕の困難の日々が始まる・・・。
                 ☆

個性的なキャラがいっぱいの鳥越家。
彼らのやり取りはとても面白い。暖かく救いのある話。

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2008/06/20 (Fri) 『フライ,ダディ,フライ』 金城 一紀

フライ,ダディ,フライフライ,ダディ,フライ
(2003/02)
金城 一紀

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そろそろ体力・記憶力に衰えを感じ始めている四十七歳。
私は鈴木一という名前のとおり、平凡なサラリーマンだ。
しかし誇れるものもある。家族だ。
妻の夕子は料理もうまく、しっかり者。娘の遥は名門女子高に通う十七歳。
娘の幸せのためなら、命すら惜しまない。
そう信じていた。あの日までは。

遥が怪我をして病院に運ばれたと聞き、慌てて駆けつけた私は動転していた。
病室のベットの上で変わり果てた姿で手を差し延べた娘を見て動けなかった。
その手を、とることが、できなかった。
私と遥の間の何かが壊れた。
私は娘を守れなかった。

復讐のため、娘に怪我をさせた男子学生、石原を襲うとするのだが、情けない手違いで、別の学校に押しかけてしまう。
そこで出会った風変わりな高校生たち。
彼らは私の話を聞いて、復讐の手伝いをすると言い出した。
私と石原の闘いの舞台を整えてやる、と。
相手はボクシングのインターハイ・チャンプだというのに。
喧嘩の達人、朴舜臣について、私の猛特訓が始まった・・・。

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2007/10/26 (Fri) 『対話篇』を読む 

対話篇対話篇
(2007/07)
金城 一紀

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『恋愛小説』
まずは僕の初めてのデートのことを話そう。
あれは僕らが中学二年の14歳の頃のことだった。
彼女は同じクラスで成績優秀で真面目な女の子だった。
僕はというと《不良》をやっていた。
英語を教えてもらったのがきっかけで親しくなり、ある日僕らは学校をサボって動物園にデートに行った。
ゾウやサルやカバを見て、たわいないおしゃべりをして、僕らは笑った。

やがて陽が暮れかけて、別れの時間が近づく頃、僕は発作的に彼女の手を握った。
彼女の手は僕の中で一瞬硬くなり、すぐにもとの柔らかさに戻った。
この子を守るのためなら死んでもいい。
僕は真剣にそう思った。

デートから3日後、僕は警察に補導された。
他校に殴り込みをかけるため、武器を持って歩いているところを通報されてしまったのだ。
取調べと説諭を受け、調書に指紋を押した。黒いインクで汚れた自分の手を見て、もう彼女とは手がつなげない、そう思った。
それをきっかけに彼女との距離はどんどん開き、言葉を交わすこともなくなった。

僕が大学時代に知り合ったある友人について話そう。
僕は彼のことを思い出すたびに、十四歳の頃、真剣に好きになった彼女のことを思い出すのだ。

大学生活最後の試験。真っ白な答案を回収された後、僕は彼に声を掛けられた。
もともとさして親しいわけではなく、意外に思いながらも、一緒にカフェテリアで話をし、彼の家を訪ねることになった。
彼には家族がいなかった。大きな屋敷にたった一人で住んでいた。
彼は子供の頃から《死神》と呼ばれていた。
彼が十歳の頃からそれは始まり、彼と親しくしていた友人たちが次々に死んでいった。
十二のとき両親が死に、唯一仲良くしてくれていた女の子も死んだ。
彼には膨大な遺産が遺され、親戚の家に預けられることになった。
誰とも親しくしないよう殻に閉じこもっていたが、彼を心配してくれていた叔母にある日心を許してしまう。
その翌日、叔母は二階から転落死した。
彼の《死神》としての運命は決定的になり、誰とも交わらない生活を余儀なくさせる。
彼女と出会うまでは。


               ☆


甘ったるい部分もある。こんなお上品な会話をする大学生がいるとは思えない。
また、金城氏の小説にはインテリな不良が多いが、これもそのパターンである。
関係ないが私は「俺」口調の小説は苦手。断然「僕」が好き。

内容はタイトルどおりの恋愛小説。
運命を信じるかということはこの際不問にして、この有り得ない設定を無条件に楽しめたら、と思う。

過酷な運命を背負った男性が恋をして、彼女はその運命ごと受け入れようとする。
彼女は云う。
「いくら親しい人がいたとしても、会わなくなったらその人は死んじゃうのよ」
「好きな人とは会い続けなくちゃいけない」

死とは何か、という問いがあるが、
「もうあなたに会えなくなる。それこそが死だ」
私もまたそう思っている一人だ。


『永遠の円環』
僕は末期のガンに侵されており、死を待つのみの身だ。
しかし僕には死ぬ前に殺さなければならない男がいる。

上原彩子とは、大学に入部してすぐに入った法律サークルで知り合った。
僕は彼女に密かに思いを寄せ、彼女の諾とするものはすべて受け入れ、彼女が嫌悪するものに唾を吐いた。
しかしある日彼女からの告白によって、その幸せな毎日は崩れ去る。
彼女は大学教授の谷村と不倫関係にあり、堕胎手術まで受けていた。
そして関係が厭わしくなり始めた谷村から手切れ金を渡され、失意の末自殺してしまうのだ。

彼女の死から一週間後に、病気が発覚し、僕は急遽入院することになった。
僕に残された時間は少ない。
殺人の手助けをしてくれる友人が必要だ。しかし誰一人として僕の茶番に付き合ってくれそうな人物はいない。
誰もが僕の変わり果てた姿から目を背け、逃げ出すような輩ばかりだ。
そこに現れたのがKだった。

Kとは何度かノートの貸し借りがある程度の知り合いだが、僕にはほかに選択肢はない。
後に知ることになるのだが、Kこそが僕の茶番劇の唯一まともな登場人物だった。

僕はKに殺人の手伝いを依頼し、彼は最も現実的な方法でそれに応える。
混乱する僕はKを問い詰める。
「君の目的は、正体は、なんなんだ?」
Kが語って聞かせるのは、想像力や洞察力に乏しい、人々の営みだ。
現実世界では、想像できる事はすべてが起こりうる。
隣人は誘拐犯かも知れず、父親は泥棒かも知れない。
通りすがりの人物は殺人者かも知れない。
しかしそんなことに気付いていたら、生きてはいけない。
感覚を鈍磨させることによって人々は辛うじて生活している。
だからこそKの本来の姿も、見ようとするものにしか見えない。

逆に想像力を味方につけることも出来る。
誰だって死ぬのは怖い。でも“死”がすべての終わりでなかったとしたら?
永遠の円環のように、廻り、巡るものだとしたら?
深い眠りに引きずり込まれそうになりながら、僕はKの放った殺人の軌跡を輝かせ、円環を繋げようとするのだった。


              ☆


死に瀕した人物が考えることといえばやはり、やり残したことや残り時間のことだろうか。
死期が迫っていなければ、主人公は殺人の衝動に衝き動かされることはなかっただろう。
明日死ぬとしたら最期に何をする?
主人公は何度もそう問いかける。



『花』
僕の脳には動脈瘤がある。
5分後にそれは破裂するかもしれないし、あるいは5年後かもしれない。
手術をすれば助かる可能性はある。
助かったとしても逆行健忘になり、過去の記憶を一切失くす恐れもある。
だから僕の手術同意書は未だ白紙のままだ。

仕事を辞め、恋人とも別れ、実家に帰ってきた僕は友人からアルバイトを頼まれる。
ごく最近、25年もの年月をかけて争った冤罪裁判で、無罪判決を勝ち取り、マスコミに取り上げられた弁護士の鳥越氏が、東京から鹿児島まで高速道路を使わず国道だけを走っていくための運転手を雇いたいというのだ。
飛行機でも新幹線でもなく、なぜ車で?
好奇心を擽られた僕はその依頼を受けることにする。

鳥越氏の車は弁護士には似つかわしくなく、白のスターレットだった。
そして運転は、持病の薬を服用して眠気に襲われたときだけ代わってくれればいい、と云う。
僕は助手席に乗り込んだ。鳥越氏との旅の始まりだった。
そしてドライブの合間に今回のたびの経緯を教えてもらうことになる。
鳥越氏が二十八年前に別れた元妻が鹿児島のホスピスで最期を迎えたので、その遺品を受け取りにいくというのだ。
彼は妻を深く愛していた。二十八年間、妻と別れてから他の女性に触れたこともない。
なのに今回ホスピスから電話をもらったとき、彼女の顔が思い出せなかったのだ。
だからこそ昔二人が新婚旅行で辿った道のりを、再び辿り直そうとしているのだ。
 

                ☆


病に冒され、生き迷っていた主人公は、鳥越氏と亡くなった妻の間に、決して消え去ることのない記憶、思いがあることを見出すいわば回復の物語である。
少々甘ったるいが、ジンとさせられるものがあった。

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