![]() | あふれた愛 天童 荒太 (2000/11) 集英社 この商品の詳細を見る |
『とりあえず、愛』
営業マンの磯崎武史は腎臓病を患いながらも、妻の莎織と赤ん坊のなつみの3人で穏やかに暮らしていた。
大きな仕事を取り、意気揚々とマンションに帰ると、妻の莎織の様子がおかしい。
問いただすと莎織は娘を殺しそうになったと告白した。
訳も分からず戸惑い、妻を問いただす武史と自分に一体何が起きたのか、言葉にできず混乱する莎織。
武史はわが子を心配するあまり、妻子を無理やり実家に預けようとしたり、医者に行かせたりはするが、医者から夫の対応にも問題があるように指摘され、不満に思う。
なつみの腕の痣を見つけて莎織の虐待を疑い、精神科に行きたいという莎織の要望を「世間体が悪い」と撥ね付ける。
そして決定的な事件が起きてしまう・・・
莎織が武史に訴える言葉がある。
「家族って何だろう。夫婦って何なのかしら。私が一番頼りにしたい
ときに、一番ひどい人だったあなたは私の何だったの」
男は自分の母親が理想でありがちだ。
あるいは自分にとって都合のいい“家族”像を創り上げ、女に理想を求める。
押し付け、雁字搦めにし、理想を保つことが当たり前で、型から外れると腹を立てる。
家族とは決して誰かから一方的に与えられるものではない。
共に創り、支えていくもののはずだ。
それを見失っていた家族の物語といえるだろう。
この他に3篇が収録されている。
『うつろな恋人』
仕事のストレスで心を壊した男性と心のバランスをとるために空想の恋人を持つ女性の物語。
男は空想の恋人から女性を奪うために、ある行動にでる。
それをきっかけに彼女の心は変容を遂げる(よいかたちに、ではない)物語中、その行動そのものが糾弾されることはなかった。
実に・・・
許せん
『やすらぎの香り』
子供の頃からひとに気を使い、やがて心のバランスを崩してしまった若い2人が懸命に寄り添おうとする。
いらっとします。
『喪われゆく君に』
漫然と生きていた若者がバイト先のコンビニで客の突然死に遭遇したことから、生きるということ、命の重さに目覚める。
これもいらっとします。
.タ行の作家 天童荒太 | trackback(0) | comment(0) |
![]() | 家族狩り 天童 荒太 (1995/11) 新潮社 この商品の詳細を見る |
高校の美術教師、巣藤浚介は隣家からの異臭に耐えかねていた。
そこは常々高校生の息子が暴れる音が聞こえていた家だ。
苦情を申し立てるため訪れるが、返事はなく、辺りには腐臭が漂っている。
鍵が掛かっていたが、強く引くと裏口の扉が外れた。
不穏な空気を感じ取り、足を踏み入れた家の中で、浚介は強烈な腐肉の臭いとそれを発する惨殺死体を発見してしまう。
遺体はその家の両親と祖父。
縛られた状態で、生きたままのこぎりで刻まれた跡がある。
そして高校生の息子は遺書めいたメモを残し、喉首を掻っ切って別室で死んでいた。
警察の見解では家庭内暴力の果て、息子が家族を殺害し、自殺したという被疑者死亡で幕を下ろすことになりつつあった。
しかし、またしても同様の事件が別の家庭で起こってしまった。
登場人物はみな何がしか家族というものに不信感や絶望感を抱いている。
彼らはみな“家族”の犠牲者たちと云えよう。
さしずめ壊れた家族の見本市というところだ。
浚介は生真面目で嫉妬深い父と放埓な母の不仲の末の刃傷沙汰がトラウマとなり、自分自身が新たな家族を持つことに不安を抱いている。
児童相談センターのカウンセラー氷崎游子は幼い頃、酔った父の手で一生背負わなければならない障害を足に負い、その父も今は早発の痴呆症に罹っている。
刑事の馬見原は暴君的な父親を忌み嫌いながらも、その跡を継ぐように、自身も我が子には厳しくあたり、己の理想を押し付けるばかりで、結果、優等生だった長男は高校入学前にバイクの無免許飲酒運転で事故死。
娘は兄の死に際に仕事を理由に駆けつけなかった父を憎み、非行に走る。
従順で夫に逆らうことを知らない妻はやがて精神を病んで自殺未遂を起こしてしまう。
皆がみな狂気を孕んでいる。
印象的なのは我が子を殺害し、狂気に憑かれた男が、馬見原の妻を訪問し、彼女の言動がおかしいことに気付き、呟く言葉だ。
「なんてこった・・・・・狂ってやがる」
そう云って男は、狂った妻を放り出して仕事に駆け回る馬見原のことを笑うのだ。
己の狂気は棚上げにして。
作者は精神病理についてよく勉強したのだろう。
ここまでパターン通りなのもどうかと思うが、各々の異常行動には説得力がある。
なかでも家庭内暴力の息子を殺害するに到っての母親の心理描写は眼を瞠るものがある。
そこには子供を殺すのではなく、助けるという意志しか存在しない。
それが狂気ゆえの偽りや誤魔化しかどうかは読んでいるこちらにも判り得ない。
ただ圧倒されるばかりである。
そしてラストに二つのエピローグが記されている。
ひとつは穏やかさと治癒が暗示されているのだが、冒頭部のそのやりとりは不自然で、甚だ馬鹿馬鹿しいようにも思える。
そしてもうひとつは新たな“家族”の小さな犠牲者の存在をあからさまにするもので、衝撃的な内容だ。
.タ行の作家 天童荒太 | trackback(0) | comment(0) |
![]() | 孤独の歌声 天童 荒太 (1997/02) 新潮社 この商品の詳細を見る |
連続コンビニ強盗、連続女性監禁殺人の二つの事件が軸となって、それ
に関わる女性刑事 朝山風希、フリーターシンガーソングライタ−潤平のトラウマ解決記。
登場人物の行動に、作者の都合でか、間抜けさゆえか、辻褄の合わない部分が見受けられた。
例えば、風希は自らを囮として単身、夜のコンビニを徘徊し、結果、犯人に攫われる事になる。
そこで疑問なのは、囮捜査のくせに何ら武器の準備をしていないという
事だ。
思うに、スタンガンの衝撃からなんともご都合よく目を覚ました風希が、
スコップを現地調達し、バッグのチェーンを拳に巻いて、メリケンサック代わり、という急場の武装をする場面を、さも機転が利いて格好いいシーンとして書きたかったのだろうが、実に浅はかだ。
着飾った衣装には実用重視の普段のバッグは持つわけにいかない
という言い訳のような描写があるのだが、だったらお洒落な高級バッグ
とやらに、愛用のスタンガンを移し替えておけばいいだけの話だ。
これじゃあ、捕まえる気皆無の馬鹿刑事である。
またそういった部分にはツッコミのない審査員の先生方はいかがな
ものか?
同じ職業を持つもの同士の同属意識でもあるのか。
こういった矛盾点は、筆力さえ勝っていれば、読み飛ばしも出来るが、
残念ながらこの作品に関しては、それだけの力は無かった。
ただ、風希が心に抱えていた子供のころの事件の描写は、
あの『永遠の仔』を書いた天童荒太らしく、興味深く読ませてもらった。
[星つけちゃうぞ]


ぶっちゃけ「羊たちの沈黙」「コレクター」のコピー。
潤平はエキセントリックでまるで尾崎豊のコピー。
.タ行の作家 天童荒太 | trackback(0) | comment(0) |
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