2006/09/20 (Wed) 『被爆のマリア』を読む

被爆のマリア 被爆のマリア
田口 ランディ (2006/05)
文藝春秋

この商品の詳細を見る


収録作
「永遠の火」
「時の川」
「イワガミ」
「被爆のマリア」

「イワガミ」より
作家・羽鳥よう子は取材のため、広島に滞在していた。
貿易センタービルへのテロ、アメリカのアフガン攻撃、バグダッド陥落、
イラクへの自衛隊派遣、そして日本人青年の拉致、殺害・・・
刻々と移り変わる不穏な時代の中、作家である羽鳥は何かをしなければと
思いつつ、何も出来ないでいた。

取材のため、被爆者たちから話を聞き、被爆建物を訪れる。
それらは“ヒロシマ”を書くためでありながら、結局何ひとつ掴みきれず、
被爆者との越えがたい壁を感じるのみだった。
どれだけの悲惨さを聞き、写真や絵を見ようとも、戦後に生まれ、戦争の
悲惨さとは無縁で生きている人間にはわかりようがないのだ。
人の苦しみを聞くなど苦痛でしかない。

   書けない

諦めてヒロシマを去ろうと決めたそのとき、羽鳥は一冊の本と出会う。
  宮野初子著『磐神』
  “イワガミは、はたらきのためにそこに在りました。
   いつからとか、どうしてとか、そういう問いのまえに
   在るべくして在りました。”
このようにして始まる物語は、太古の時代から広島の東北部山頂に在る
らしい“イワガミ”の視点を通して語られる。
それは、まだ人も動物も自然も渾然一体となって存在していたころから
始まる。
まるで神話のように、だ。
たちまちその語り口に魅了されてしまった羽鳥は『磐神』に書かれている
“イワガミ”が実在することを知り、そこを訪れ、触れ、その頂上から広島を
見下ろす。

人々が農耕を始め、異国人が訪れ、町は栄え、しかし争いが起こり・・・
やがて空から邪悪なモノを孕んだ銀色の物体が飛んできて・・・
“イワガミ”にはその邪悪なモノを払うだけの力はない。
だがその代わりに「お使い」であるキツネを遣す。
“イワガミ”に命じられてキツネたちは、焼け逝く人々の魂を浄化せんと
その金色の身を焼かれながらも、焦土を駆け巡る。
生きながら焼かれる者たちの合い間を縫い、呪を凝らす。
もたらすのは、死すべき者たちの最も美しい思い出。
人々が最期に観たのは、自身の美しい思い出だけ・・・
そうして浄化された魂たちは、輝く真珠魂となり、ほうき星のように空を
舞い、穢れた土地を祓っていく。

その作中には原爆の地獄絵図はほとんど描かれていない。
美しい広島の姿だけだ。
宮野初子が愛した美しいヒロシマの姿だけだ。
羽鳥はもう一度被爆者たちと会う。
そして爛れたヒロシマではなく、美しかった広島の姿を尋ねるのだ。

人はヒロシマを語るとき、ともすれば焼け爛れた肌や脂の浮いた異臭を放つ
川面ばかりに目を向けがちである。
しかし時には、清らかにたゆたう水や市に賑わう人々の姿を思い浮かべても
いいのではないだろうか。

【ぉ星様きらきら】
  「イワガミ」に関してのみ云えば、こういう評価になる。
  この作中にもあったのだが、自分がどれだけ感銘を受けた作品でも
  他者が同様に感じるとは限らないものだ。
  それだけ読書とは孤独な作業なのだろう。
  しかし、私のためだけに、私にだけ訴えかけて来る本、というのも
いいものだ。

.タ行の作家 田口ランディ | trackback(0) | comment(0) |


2006/09/20 (Wed) 『ぷちすとハイパー!』を読む

ぷちすとハイパー! ぷちすとハイパー!
室井 佑月 (2006/06)
中央公論新社

この商品の詳細を見る


“ぷちストーリー”つまりショートショートだ。
男と女の駆け引きというか、とんでもない自己中な人間たちの生態が節操もなく描かれている。
気に入った話が一つあったので紹介しよう。

留守番中の夫が偶然、妻の雑誌への投稿はがきを見つけてしまう。
そこには夫の悪口が延々と書かれている。
 「共働きなのに家事に協力的でない。服は脱ぎっぱなし。
  休日は寝てばかり。このままではうまくやっていく自信がない云々・・・」
夫はそれを読んでひとり怒る。
  共働きだと?お前のパートと俺の仕事を一緒にするな!
  お前が家事が面倒になったというだけの話だろ!
  そんなに面倒なら自分のパートの給料で家政婦を雇えばいいだろ!

このように一通り怒りつつも、脱いだパジャマをいそいそと洗濯機に入れに行くのだ。
ふふふ・・・なのであった。

もぅいいから長編書け!って感じだ。

【ぉ星様きらきら】
  暇つぶしにはなる、というか暇つぶしにしかならない

.マ行の作家 室井佑月 | trackback(0) | comment(3) |


2006/09/09 (Sat) 『不思議な少年 第44号』を読む

不思議な少年第44号 不思議な少年第44号
マーク トウェイン (1994/07)
角川書店

この商品の詳細を見る


1490年の冬のある日。
オーストリアの古城で印刷工場を営むシュタイン一家の前に、吹雪の中を一人の身なりの貧しい美少年が現れた。
「第44号、ニュー・シリーズ864962」と名乗るその謎めいた少年に、主人は食事や住まい、印刷見習工の職を与えたのだが、それに不満を抱く人々が少年を追い出そうと、数々の嫌がらせを画策する。
そんな彼らを少年は次々と不思議な力を使い、翻弄する。

主人公のアウグストは44号と友人関係を持つ。
主のシュタインや家政婦のカトリーナも44号をないがしろにはせず、
保護しようとする。
カトリーナにいたっては我が子と変わらず可愛がるのだ。
なのに彼らは少年を『44号』と呼び続ける。
そこらへんが不思議といえば不思議。
名がなければ、名付けようとするだろう、普通。

そもそも宗教観が違うので違和感というか、理解できない部分が多い。
5万円払って修道女に代わりに祈ってもらうなんて、エゲツない行為としか思えないんだけどな。
そこらへんが不思議といえば不思議。
そして物語の最後の方で44号は“神”をコテンパンにこき下ろしている。
この作品は作者の死後に編纂されたもので、不完全なのだが、この部分だけは完成形を成しているように見えるのは気のせいだろうか?
そこらへんが不思議といえば不思議。

[お星様きらきら]
主人公アウグストは44号に連れられ、時間も場所も生死も越えて旅をする。
そんな44号の役回りは『ファウスト』のメフィスト・フェレスによく似ているパクリなんじゃ

結末は『エヴァンゲリオン』最終回と似たり寄ったりw
結局この世には自分しかいない的なオチをありがとう。

予断だが漫画家の山下和美が『不思議な少年』という漫画を描いている。
何でもトゥエインの『不思議な少年』にインスパイアされて描いたそうだ。
そしてトゥエインの『不思議な少年』は以前、偽物が出回っていたらしい。
彼女がインスパイアされたのは果たして本物だったのか、偽物だったのか・・・?
不思議な少年 (1) 不思議な少年 (1)
山下 和美 (2001/10/23)
講談社

この商品の詳細を見る

.海外作家 マーク・トゥエイン | trackback(0) | comment(0) |


| TOP |

プロフィール

小日向 ゆう

Author:小日向 ゆう
読むのも書くのも好き!

カテゴリー

最近の記事

最近のコメント

月別アーカイブ

リンク

このブログをリンクに追加する

FC2カウンター

ブログ内検索