![]() | 川の光 松浦 寿輝 (2007/07) 中央公論新社 この商品の詳細を見る |
クマネズミのタータとチッチ兄弟は、お父さんと3匹で、川のそばの先祖代々から続く巣穴に暮らしている。
お母さんは死んでしまっていないが、いつも聴こえる川のせせらぎがタータにとっては子守唄のようなものだった。
そして川原は兄弟にとって、追いかけっこをしたり、小石を蹴飛ばしあったり、遊ぶには事欠かない場所だ。
ひょんなことからゴールデン・レトリバーの子犬、タミーと友達になり、平和な毎日を送っているはずだったのだが、ある日突然川原にたくさんの人間が押し寄せ、杭を打ち、地を均し、木を伐り倒し始めた。
タータたちの暮らす川にフタをして暗渠とする工事が始まったのだ。
3匹は川に生きるネズミ。
人ごみの中では暮らせない。
新たな巣を求めて工事の及ばない上流へと旅に出るのだった。
旅先で3匹はさまざまな困難に遭遇する。
同じように川を遡るイタチに襲われ、命からがら逃げ出す。
かと思うと川沿いに遡ろうとするネズミたちをことごとく阻止するドブネズミ軍団に痛い目に遭わされ、街中を強行突破する破目に陥ったり・・・・。
しかし反対に価値ある出会いもあった。
猫のブルーは、お父さんたちとはぐれてしまったタータを面倒がりながら、世話をしてくれる。
モグラの未亡人は我が子同様にタータとチッチを可愛がり、こともあろうにお父さんに流し目を送ったりもする。
読売新聞の夕刊に連載された作品である。
昨今、大人にも人気のある児童書には、主人公に近しい人物が衝撃的に死を迎えることが多い。
確かにその方が読み物としての感動(動揺、悲しみ)は与えられるだろう。
夢物語ではない現実の厳しさを教える意味での死もあろう。
それらを今ここで是非するつもりはない。
ただ、それらに慣らされた私はこの作品を読んで、実に素直に一喜一憂させてもらった。
残酷な死が描かれてもいるが、それはエッセンスと見ていいだろう。
ネタバレになるが、3匹は一匹も欠けることなく、旅を終える。
あまつさえ次なる冒険を匂わせるようなエピローグさえある。
もっともあとがきには、こうしたものはもう二度と書くことはないだろう、と著者は断っているが。
小説としては物足りない感もある。
お爺さんネズミの移動経路についての謎解きもない。
悪い奴は結局痛い目に遭う、という勧善懲悪のセオリーに遵ってしまっている。
新聞小説にしては随分子供じみている。
お父さんとタータはネズミ色だと記述があるのに、挿絵では茶色である。
それらを差し引いても、物語全体を流れる川のように連綿と注がれる、作者の生き物たちへの愛情は感じられるのであった。
.マ行の作家 松浦寿輝 | trackback(0) | comment(0) |
![]() | シルエット 島本 理生 (2001/11) 講談社 この商品の詳細を見る |
『シルエット』
高2のわたしにはせっちゃんという大学生の恋人がいる。
週に数回一人暮らしの部屋に泊まりに行くのが習慣になっており、二人の関係は順調だ。
しかしわたしの心の中にはいまだ冠くんの姿がある。
高1で知り合って付き合い始め、そして別れた彼。
冠くんには秘密があった。
彼の母親は彼が十歳のときに男を作って家出し、数ヵ月後出戻ってきた。
家族の関係は病み、軋み、傾いていく。
ついに父親が母親を刺し逃亡。
寝たきりになった母親と冠くんだけが残された。
幼い頃に母親に生々しい“女”を感じ取ってしまった冠くんは、異性に触れることを恐れた。
彼は女性に嫌悪感を抱いていることを告白する。
母親の介護のときでさえ、手袋を付けずには体に触れられないというのだ。
わたしは彼の依怙地を責め、彼はそれを否定できない。
そして別れ。
喪失感からわたしは夏休みの間、家出をして藤野という大学生の部屋に転がり込む。
そこでセックスに何かを求めるかのような暮らしを続けるのだが、藤野の友人の女性から、彼がいかにスポイルされた人間であるかを聞かされ、逃げるように家に帰る。
そしてせっちゃんに出会い、恋をする。
恋人がいながら、前の彼のことが忘れきれない女心でしょうか。
話運びがぎこちないような気がする。
高校生の書いた物だけあってテーマも幼い。
ラストで冠くんの『気付き』が描かれる。
女たちが求めていたものがやっと彼には分かるのだが、それこそ、人間の心とはそんなに簡単なものじゃない。
求めるものを与えることは、とても難しいことなのだ。
あと、タイトルと内容と何の関係がある?
『脳裏に一瞬だけ姿を見せた衝動だけは〜』って“だけ”が重複してる。見苦しい。
『わたし、今まで他人に合わせることがあまり好きじゃなかった〜中略〜好きな人に合わせるのってちっとも苦痛じゃなく楽しいね』
↑ガキだから云える台詞。
『植物たちの呼吸』
柚子は恋人の江島君の部屋に居候している。
彼の部屋にはたくさんの植物が置いてある。
食事の用意をして待っているのに彼は帰ってこない。
慰みに友人に電話を掛けてみる。
「どこにいると思う?江島君の家。本人は不在だけどね」
友人は不自然な間をおいて穏やかな声で「そう」と答える。
電話を切るが、彼はまだ帰ってこない。
待ちくたびれてベッドに横になると、奇妙な夢を見た。
江島君がバイトからの帰り道で事故に遭い、死んでしまう夢だ。
夢の中で柚子は彼の葬式にも出席する。
そして彼の死んだ後も彼の部屋で帰りを待ち続けるのだ。
汗をかいて目覚める。
彼はまだ帰ってこない。
嫌いじゃないね、これ。
ちょっとホラー仕立てで。
『ヨル』
夜ひとりの家にいるのが辛くて沙夜は町を歩く。
ビデオ屋を冷やかし、古本屋に入る。
そこで偶然黒猫とクラスメートの神谷君に出会う。
神谷君は常にひとりで行動し、『友達なんて面倒くさい、誰かと一緒でないと行動できないのは馬鹿な証拠』と豪語するツワモノだ。
神谷君に話しかけるも無視されて沙夜は泣き出してしまう。
すると彼は黒猫の名を教えてくれ、猫を抱いていてくれないかと持ちかける。
訳も分からず云うとおりにすると、彼は本棚からごっそり文庫本を取り出し、そのまま店外に出てしまう。
青春だね。
何が云いたいのかわからない。
意味がありそうで、実はない、そんな物事に憧れる世代には魅力的なのかもしれない。
私もかつてそうだったように。
.サ行の作家 島本理生 | trackback(0) | comment(0) |
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