![]() | 軟弱者の言い分 小谷野 敦 (2001/03) 晶文社 この商品の詳細を見る |
『ファッションに無関心である自由』
朝日新聞の記事に「すてきなオヤジ」と題してファッションに関することが書いてあった。
若者の茶髪やピアスに大人が不快感を示すが、自分たちも若い頃、制服を改造して大人たちに怒られていたことを考えれば、おかしな話だ云々。
小谷野氏はこれに対して「少なくとも私は制服に細工したりしなかったし、ほかにもしなかった人はいるはず」と書いている。
なるほどそういう発想の持ち主なのか、と素直に思った。
こういう事はなかなか云えたものではない。
多くの人は「悪かった」ことを格好いいと思っている節がある。
よく聞くのは、子供に対して父親が「お父さんは昔は悪かったんだぞぅ」と威張るが実はいじめられっ子だったという笑い話。
これが端的に『悪=かっこい』の図式を表している。
そして『引きこもる若者たち』から抜粋。
引きこもりの末、自ら命を絶った女性の父親の弁「いま、価値観の多様化とか言うけれど、全然、そうなってない。スピーディーに、ネアカで・・・・・。その逆の子は、生きられないじゃないですか」
同意。誰もが流されている。それに乗れない人間は落ちていくのみなのか。
『食事は好き?』
柳田國男(民俗学者)を引き合いに出し、食事が面倒くさくて仕方がないという話をしている。
まったく同感。
一日に3回も食事に時間を割くなんて、やってられない。
食べることが好きな人間には分からないだろう、とはそのとおりだと思う。
丸一日食べなくてもいい日すらある。
なぜ食べるかといえば仕方がないから。
かといって味にこだわらないかといえば、不味い物は食べたくない。
どこまでもわがままw
そして、子供はえてして食事が嫌いなものである。
その延長線上にいるのが、著者や私のような食事嫌いなのかもしれない。
ただ私の場合は『吐く』ことに嫌悪感はないので、さらに性質が悪いといえようか。
『分別中毒』
小谷野氏が大阪から東京都西部に越してきて憤慨したことがある。
ゴミの分別方法の厳しさにである。
私も驚いたのだが、電話代の請求書などの宛名がビニールで窓になっているやつ。
あれもちゃんと剥がして分別せよ、ということだそうだ。
すげー細かい。
そもそもそんな封筒を作ったり売ることを禁止すればいいではないか、と怒っている。
しかしやっているうちに著者はそれが快感になってきたそうだ。
もともと嫌いではないらしい。
大阪在住時も瓶の口のビニールキャップを「さあ泣き別れだよお」などとやりながら楽しく外していたそうなので、ホンモノだ。
これは今度自分でも云ってみようと思う。
ちなみに[付記]によると、名古屋ではさらに分別基準が厳しいらしく、某大学教授は論文を書く暇がないといって、東京へ引越し新幹線で通っているそうだ。
名古屋恐るべし。
『にわか文藝時評家の日々』
過去の書評を載せた章である。かなり切羽詰って書いた様子だ。
以下抜粋。『鈴木の文章は独特の艶と色気を持ち、かつヒューマンである。鈴木は『短大卒』という学歴を誇りに持っているが、もうこういう文章はへたに四年制の大学なんか出ているとと書けないのかな、と思わせる』
本書の中でこのように『四年制の大学』云々書いた箇所について言い訳じみた記述がある。
非常勤講師として短大で働いた経験を踏まえ、短大生のなかにはとても意欲的な学生がおり、四年制の学生には甘えがある、短大で教えていた頃が、そういった点では、妙に懐かしい、というようななんとも不可解な文章。
学歴が低い奴には魅力的な文章が書けない、と少なからず思っていたと正直に云えばいいのに。
ちなみに私が常々思うのは、社会的地位は高い様子なのに、まともな文章が書けない人たちのことである。
おそらく四大を出て、現在は人を使う立場にあり、あらゆる書類を作成し、目を通しているだろう人たちのことである。
まったくもって支離滅裂で、話し言葉かというと、それにしても意味が通らない。
読む側の想像力に頼っているとしか思えない。
論理的思考は出来るはずなのに、読める文章が書けない人というのは、やはりどこかの回路が断線しているのであろう。
そのほかには・・・
宮崎哲弥は恋愛結婚なのだろうか。すると恋愛と共同体の根本的な齟齬について書いてもらいたい。
同意。興味あり。
荒川洋治(詩人)さんは「党派心」のない人で友達が少ないけれど文章が気持ちいい。
仲間の多い人の文章には気をつけた方がいいそうだ。
うん。本当だな。つるむヤツは苦手だ。
.カ行の作家 小谷野敦 | trackback(0) | comment(0) |
![]() | 対話篇 (2007/07) 金城 一紀 商品詳細を見る |
『恋愛小説』
まずは僕の初めてのデートのことを話そう。
あれは僕らが中学二年の14歳の頃のことだった。
彼女は同じクラスで成績優秀で真面目な女の子だった。
僕はというと《不良》をやっていた。
英語を教えてもらったのがきっかけで親しくなり、ある日僕らは学校をサボって動物園にデートに行った。
ゾウやサルやカバを見て、たわいないおしゃべりをして、僕らは笑った。
やがて陽が暮れかけて、別れの時間が近づく頃、僕は発作的に彼女の手を握った。
彼女の手は僕の中で一瞬硬くなり、すぐにもとの柔らかさに戻った。
この子を守るのためなら死んでもいい。
僕は真剣にそう思った。
デートから3日後、僕は警察に補導された。
他校に殴り込みをかけるため、武器を持って歩いているところを通報されてしまったのだ。
取調べと説諭を受け、調書に指紋を押した。黒いインクで汚れた自分の手を見て、もう彼女とは手がつなげない、そう思った。
それをきっかけに彼女との距離はどんどん開き、言葉を交わすこともなくなった。
僕が大学時代に知り合ったある友人について話そう。
僕は彼のことを思い出すたびに、十四歳の頃、真剣に好きになった彼女のことを思い出すのだ。
大学生活最後の試験。真っ白な答案を回収された後、僕は彼に声を掛けられた。
もともとさして親しいわけではなく、意外に思いながらも、一緒にカフェテリアで話をし、彼の家を訪ねることになった。
彼には家族がいなかった。大きな屋敷にたった一人で住んでいた。
彼は子供の頃から《死神》と呼ばれていた。
彼が十歳の頃からそれは始まり、彼と親しくしていた友人たちが次々に死んでいった。
十二のとき両親が死に、唯一仲良くしてくれていた女の子も死んだ。
彼には膨大な遺産が遺され、親戚の家に預けられることになった。
誰とも親しくしないよう殻に閉じこもっていたが、彼を心配してくれていた叔母にある日心を許してしまう。
その翌日、叔母は二階から転落死した。
彼の《死神》としての運命は決定的になり、誰とも交わらない生活を余儀なくさせる。
彼女と出会うまでは。
☆
甘ったるい部分もある。こんなお上品な会話をする大学生がいるとは思えない。
また、金城氏の小説にはインテリな不良が多いが、これもそのパターンである。
関係ないが私は「俺」口調の小説は苦手。断然「僕」が好き。
内容はタイトルどおりの恋愛小説。
運命を信じるかということはこの際不問にして、この有り得ない設定を無条件に楽しめたら、と思う。
過酷な運命を背負った男性が恋をして、彼女はその運命ごと受け入れようとする。
彼女は云う。
「いくら親しい人がいたとしても、会わなくなったらその人は死んじゃうのよ」
「好きな人とは会い続けなくちゃいけない」
死とは何か、という問いがあるが、
「もうあなたに会えなくなる。それこそが死だ」
私もまたそう思っている一人だ。
『永遠の円環』
僕は末期のガンに侵されており、死を待つのみの身だ。
しかし僕には死ぬ前に殺さなければならない男がいる。
上原彩子とは、大学に入部してすぐに入った法律サークルで知り合った。
僕は彼女に密かに思いを寄せ、彼女の諾とするものはすべて受け入れ、彼女が嫌悪するものに唾を吐いた。
しかしある日彼女からの告白によって、その幸せな毎日は崩れ去る。
彼女は大学教授の谷村と不倫関係にあり、堕胎手術まで受けていた。
そして関係が厭わしくなり始めた谷村から手切れ金を渡され、失意の末自殺してしまうのだ。
彼女の死から一週間後に、病気が発覚し、僕は急遽入院することになった。
僕に残された時間は少ない。
殺人の手助けをしてくれる友人が必要だ。しかし誰一人として僕の茶番に付き合ってくれそうな人物はいない。
誰もが僕の変わり果てた姿から目を背け、逃げ出すような輩ばかりだ。
そこに現れたのがKだった。
Kとは何度かノートの貸し借りがある程度の知り合いだが、僕にはほかに選択肢はない。
後に知ることになるのだが、Kこそが僕の茶番劇の唯一まともな登場人物だった。
僕はKに殺人の手伝いを依頼し、彼は最も現実的な方法でそれに応える。
混乱する僕はKを問い詰める。
「君の目的は、正体は、なんなんだ?」
Kが語って聞かせるのは、想像力や洞察力に乏しい、人々の営みだ。
現実世界では、想像できる事はすべてが起こりうる。
隣人は誘拐犯かも知れず、父親は泥棒かも知れない。
通りすがりの人物は殺人者かも知れない。
しかしそんなことに気付いていたら、生きてはいけない。
感覚を鈍磨させることによって人々は辛うじて生活している。
だからこそKの本来の姿も、見ようとするものにしか見えない。
逆に想像力を味方につけることも出来る。
誰だって死ぬのは怖い。でも“死”がすべての終わりでなかったとしたら?
永遠の円環のように、廻り、巡るものだとしたら?
深い眠りに引きずり込まれそうになりながら、僕はKの放った殺人の軌跡を輝かせ、円環を繋げようとするのだった。
☆
死に瀕した人物が考えることといえばやはり、やり残したことや残り時間のことだろうか。
死期が迫っていなければ、主人公は殺人の衝動に衝き動かされることはなかっただろう。
明日死ぬとしたら最期に何をする?
主人公は何度もそう問いかける。
『花』
僕の脳には動脈瘤がある。
5分後にそれは破裂するかもしれないし、あるいは5年後かもしれない。
手術をすれば助かる可能性はある。
助かったとしても逆行健忘になり、過去の記憶を一切失くす恐れもある。
だから僕の手術同意書は未だ白紙のままだ。
仕事を辞め、恋人とも別れ、実家に帰ってきた僕は友人からアルバイトを頼まれる。
ごく最近、25年もの年月をかけて争った冤罪裁判で、無罪判決を勝ち取り、マスコミに取り上げられた弁護士の鳥越氏が、東京から鹿児島まで高速道路を使わず国道だけを走っていくための運転手を雇いたいというのだ。
飛行機でも新幹線でもなく、なぜ車で?
好奇心を擽られた僕はその依頼を受けることにする。
鳥越氏の車は弁護士には似つかわしくなく、白のスターレットだった。
そして運転は、持病の薬を服用して眠気に襲われたときだけ代わってくれればいい、と云う。
僕は助手席に乗り込んだ。鳥越氏との旅の始まりだった。
そしてドライブの合間に今回のたびの経緯を教えてもらうことになる。
鳥越氏が二十八年前に別れた元妻が鹿児島のホスピスで最期を迎えたので、その遺品を受け取りにいくというのだ。
彼は妻を深く愛していた。二十八年間、妻と別れてから他の女性に触れたこともない。
なのに今回ホスピスから電話をもらったとき、彼女の顔が思い出せなかったのだ。
だからこそ昔二人が新婚旅行で辿った道のりを、再び辿り直そうとしているのだ。
☆
病に冒され、生き迷っていた主人公は、鳥越氏と亡くなった妻の間に、決して消え去ることのない記憶、思いがあることを見出すいわば回復の物語である。
少々甘ったるいが、ジンとさせられるものがあった。
.カ行の作家 金城一紀 | trackback(0) | comment(0) |
先述の感想文の中に『フィリピーナ、名古屋』という単語があったせいか、
エロサイトからのリンクが2件。
どういうリンクのされ方なのか、意味不明。
不明地域からと愛知県からのアクセスなのだが、その中で気になったのが・・・
↓
プロバイダ 不明
地域 不明 (米国営利組織)
都道府県 不明
米国営利組織ってなんだ?
スゲー気になる。
外資系企業なのか?
つい秘密組織みたいなのを想像してしまう。
そしてそこの諜報員が、エロサイトを探してPCにかじりついているのだ。
しかし企業のPCは、セキュリティのためにアクセス解析にフィルターをかけているのだろうか。
なまらうらやましい。
日記 | trackback(0) | comment(2) |
![]() | ニート 絲山 秋子 (2005/10/29) 角川書店 この商品の詳細を見る |
『ニート』
久しぶりに友人のブログを開いたら、彼は困窮の至りだった。
仕事を辞めて以来、働く気をなくし、ひきこもりがちになり、街金に手を出し、食事もろくにとれず、光熱費の支払いも危うかった。
私がまだ無職の物書き志望だったころ、彼と知り合い、二人でよく安酒を飲み、部屋に出入りし、セックスをした。
私が書くことで生活できるようになった今、久しぶりに彼にメールを送る。
食事に誘い、そして2年ぶりの彼の衰弱を目にする。
彼の食はすっかり細くなっていた。
私は彼に金の話を持ち出す。納得しない彼から口座番号を聞きだし、金を貸す。
翌日彼からお礼のメールが来る。
私は今度食事をしよう、そして旅行に行こうと返信をする。
彼に金を貸すことで失うものはないと思っていたけれど、確実に失くしたものがある。
例えば彼とは当分寝ない。寝たら彼は私のヒモみたいになってしまうだろう。
彼を愛しているような気もする。でも先の事は分からない。
ただ彼に金を貸すと決めたとき、私も彼の人生という責任を負ったのだ。
☆
これは好きだ。
人の人生を背負うってことの意味が分かっている人だ。
感銘。
作中では『キミ』と手紙のような二人称が使われている。
最初違和感があったが、慣れれば悪くない。
『ベル・エポック』
婚約者を突然の病で亡くした友人が、三重の実家に帰るというので引越しを手伝いに来た。
荷造りを手伝いながら、亡くなった婚約者の話をしたり、彼女の田舎の様子を尋ねる。
彼女は田舎にある秘密の湧き水の話を聞かせてくれる。
荷造りを終え、引越屋が荷物を運び出した後、最後に一つだけ残しておいたダンボールの中を何となく覗いた。
最後に使った食器のほかに新しい雑巾やトイレットペーパが一巻入っている。
そして私は気付いてしまう。
彼女は実家に帰らない。
☆
よく意味の分からない話であった。
ここに容易に纏められてしまうストーリーであるし。
だから何?って感じ。
『2+1』
これは『ニート』の続編。
またしても生命の危機に陥った彼を、私は自分の部屋に住まわせることにする。
ただし私は女友達とルームシェアしている立場で、その友人とも生活していくうちに険悪になっており、まったく口を利かない状態ではあった。
友人には置手紙で断りをいれ、彼との共同生活が始まる。
彼は私のベッドで眠り、貸してやったパソコンをいじり、ご飯や酒を振舞ってもらう生活。
私は原稿を書いたり、原作料をとり立てる電話を掛けたりする生活。
仕事に疲れた私は幸せそうに眠る彼の寝顔に腹立たしさを覚え、一緒に布団に潜り込んでしまう。
そしてなしくずしにセックス。
同居人との「男を連れ込まない」という決まりごとを破ったうえ、肉体関係も持ってしまうのだ。
彼を救いたいという思いと保護するごとに彼から搾取しているという自覚を抱えながら、共同生活を送る。
そしてついに彼は実家に帰ることになった。
彼を好きだという想いが、自分のなかで大きくなっていてのは自覚するけれど、やがてそれが消えていくことも分かっている。
そして彼は帰っていった。。
そして同居人もまた、この部屋を去ることを告げてくるのだった。
☆
うまく表現できないが、嫌いではない。
人と人の関係にお金という負荷がかかることによって、バランスが崩れてしまう様子が目に浮かぶ。
ルームシェアしていた友人との冷え切ったやり取りも読んでいてこわい。
『へたれ』
恋人の松岡さんと正月を共に過ごすため、僕は東京から新幹線に乗る。
道々、僕が回想するのは3人の女性である。
一人が松岡さん、一人は幼い頃に母を亡くした僕を育ててくれた母の従姉妹の笙子さん、そして家を出て行ってしまった妻のあゆみ。
妻のあゆみは僕の中ではすでに小さい出来事のようだ。
妻が出て行ったことを松岡さんには話したが、笙子さんには話していない。
ホテルマンの僕が正月に休みが取れるのは稀なことだ。
僕が松岡さんと過ごすことを知ったら、笙子さんはどう思うだろうか。
笙子さんの料理はとても不味かった。
松岡さんの料理はミンチを使ったものが多い。
僕は名古屋駅で新幹線を降りてしまう。
僕は笙子さんに引き取られてから、名古屋で育った。
笙子さんはひとりで正月を過ごすだろう。
きしめん屋で食券を買い、きしめんを食べ、店を出て、立ち尽くす。
僕は松岡さんに初めての嘘をつくのだろうか。
☆
途中、主人公が子供の頃暗記するほど読んだという、草野心平の詩が挿入されている。
「ごびらっぷの独白」というカエル語の詩だ。
日本語訳も付いている。
独特の雰囲気で単調なストーリーのいいスパイスになっている。
『愛なんていらねー』
これはスカトロだった・・・orz
.ア行の作家 絲山秋子 | trackback(0) | comment(0) |
![]() | 葉桜の季節に君を想うということ (本格ミステリ・マスターズ) 歌野 晶午 (2003/03) 文藝春秋 この商品の詳細を見る |
成瀬将虎は地下鉄のホームで線路に飛び降りる女を見た。
明らかに自殺である。無理やりに線路から押し出し、夢見の悪い思いはしないですんだのだが、駅員に詳しく事情を説明する破目になった。
これが麻宮さくらとの出会いである。
後日さくらからのお礼の電話をきっかけに、二人は度々外でデートを繰り返す仲となる。
どうやらさくらには多額の借金があるようで、それを悔やんでの自殺未遂だったらしい。
成瀬はさくらに好意を抱いてはいたが、最後の一線を越えるのは躊躇われていた。
そんな時、成瀬の通うフィットネスクラブ仲間であり、高校の後輩でもあるキヨシから厄介ごとを頼まれる。
キヨシの想い人である久高愛子の身内に交通事故死という不幸があったのだが、そこに保険金殺人の疑いがあるというのだ。
保険の受取人は羽田管理倉庫という架空の会社。
事故死した隆一郎はもと有名企業の役員であり、そんな会社にはまったく覚えはない。
知らないうちに羽田管理倉庫の社員として登録され、保険を掛けられていたらしいのだ。
保険会社の確認の電話で明らかになっており、保険金が支払われる事はなかったのだが、殺人の疑いがあるなら放っておけない。
疑わしいのは故隆一郎が嵌っていた、法外な値段で怪しげな健康器具等を売りつける団体、蓬莱倶楽部。
隆一郎は生前、一式100万もする布団や一本二万円の水など、総額5千万も蓬莱倶楽部につぎ込んでいた。
愛子とその家族は、世間体もあるので、隆一郎が悪質な業者に騙されていたのは公表したくない。
しかし、もしもただの事故死でなかったのだとしたら、このままにはしておけない。
かくして元探偵(見習い)であった成瀬に白羽の矢が立ったのだ。
任務は蓬莱倶楽部の内偵。
成瀬はなしくずしにこの依頼を受けることになるのだが・・・。
ジャンルは本格ミステリということらしい。
あんまり面白くない。
成瀬が若い頃遭遇した事件も挿入されており、同時進行するが、組み立てが上手いとはお世辞にも云えない。
作中のヤクザの変死事件のネタ証しも一定の水準に達しているとは思えない。
エピソードの一つとして、名古屋で人探しをするという場面がある。
行方不明のフィリピーナ。
手がかりは名古屋で『山下』という店を始めたらしい、ということと場所は『市場』という所らしいこと。
まず『山下』を104で調べて該当がなかったとしても、シークレットにしているかもしれない、なんて普通思わないよ。
屋号をシークレットにする客商売なんてあるかよ?
『山下』の別の読みを探すなりなんなりするだろう?
トリックが小学生のナゾナゾ本並みやったわ。
クライマックスでメインのトリックが明かされる。
確かに意外ではあるが、こんなことは森博嗣や浦賀和弘で経験済みである。
惑乱させることに成功しているとは思えない。
まさかこれだけのために、こう冗長な文章を読まされたのかと思うと、いささか落胆。
確かに文章<会話)に不自然な部分があったが、伏線としては弱いと思う。
ヒント:愛子の会話文「おとうさん」とか「おじいさん」ってへん、と思ってた。
あ、でも装丁はイイね!(゚∀゚)
十把一絡げ | trackback(0) | comment(0) |
![]() | リトル・バイ・リトル 島本 理生 (2003/01/28) 講談社 この商品の詳細を見る |
ふみにはユウちゃんという妹がいる。
父親は違い、今は母と3人暮らし。
実の父親とは年に一度、誕生日には会っていたのだが、ふみが中一の年、約束の場所に、ついに父は現れなかった。
それ以来会っていない。幼い頃には虐待も受けていた。それでも血の繋がった親を切り捨てきれない想いがふみの中にある。
高三になったふみが受験勉強の真っ最中、母が2番目の父親と離婚してしまった。そのためふみは進学をいったん見送ることになる。
しかも突然母親の勤める整骨院が潰れてしまい、必然アルバイトをしながらのモラトリアムとなった。
やがて再就職を果たした母のおかげで知り合うことになった市倉周。
周はキックボクシングをやっている一つ年下の男の子である。
互いに好意を抱き、二人の距離は少しずつ縮まっていく。
まぁ、恋愛小説でもあるのだが、主人公の抱えているささやかな困難が主題なのだろうか。
父親に捨てられた記憶は、自己の存在の不確かさが彼女を苛んでいるということか。
また夜スーパーに買い物に行ったシーン。店の前で制服姿の男女が楽しそうに騒いでいるのをぼんやり眺める様子からは、自分が今どこにも属していない、というふわふわとした不安が垣間見える。
こういった類の小説にありがちなように、主人公には友人の影が見えない。
18、19の女の子でありながら、友達に電話をするシーンすらない。
しかし高校時代には友達と夜遊びをしていたとの記述があるのが逆に不自然極まりない。
また人見知りするタイプのようなのに、好みの男の子には実に積極的だ。
初対面からいきなり彼の試合を観に行ってみたいと云ったり、本人の承諾があるからと、名前を呼び捨てにしたり。
そうでなければ話が進まないから、と創り上げたエピソードとしか思えない。
読んでいてこそばゆいのは、もしかしたら彼女の文章が自分のそれと似ているせいかもしれない。
『山盛りのキャベツを前にウサギになったような気がしながら』という記述を読んで過去に自分が書いた一文を思い出した。
『汗をかいた肌はべたつき、カエルになったような気分で・・・』
というものだったと思う。
幼い、若い比喩は他人事とは思えず、居心地が悪い。若手作家の著作を読んで不快になるのは実はこうしたことが一因としてあるのかもしれない。
そしてもうひとつエピソードを挙げておこう。
ふみが通っている習字教室の先生、柳さんは結婚する際、次のような約束を奥さんにさせられる。
「後に残されるのはたまらない。絶対に自分より長く生きてくれ。」
そしてその言葉通り奥さんは先に逝ってしまう。
実はこの奥さんが登場したとき私は、おそらくこの人は死ぬだろうなという予感があった。作者の意図が透けて見えたからだ。
彼女はJ.アーヴィングを読んでいるようだし、突然の死が読者に与える効果を知っているのだろう。残念ながら、筆力では及びもつかなかったが。
葬式の後、心配して訪ねてきたふみに、柳さんは語る。
「どんな言葉でも言ってしまうと魂が宿るんだよ。〜中略〜書いた瞬間から言葉の力は紙の上で生きてくる。そして、書いた本人にもちゃんと影響するんだよ。」
これは作者の望みでもあるのだろう。
使い方を間違わなければ、言葉はとても大きな力を持つのだ。
私もそう信じている。
ともかく、この言葉のために、作者は柳さんの奥さんを登場させ、死なせた。
それは評価に値するだろうか?
いや、書くものは書かれる者をもっと尊重すべきだと私はそう思うね。
.サ行の作家 島本理生 | trackback(0) | comment(0) |
| TOP |






