2008/03/10 (Mon) 『エスケイプ/アブセント』を読む

エスケイプ/アブセントエスケイプ/アブセント
(2006/12)
絲山 秋子

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「どっかで暴動でも起きないかなー」
七四年、三菱重工爆破事件に興奮を覚えた少年は、大学でセクトにはまり込み、二十年間職業革命家をやっていた。
でも9・11テロで気がついちゃうんだ。
自分がラディカルでもなんでもないことに。
なんだったんだ二十年。魂の無駄遣いってやつ?
そんで目が覚めた。おれはおれの余生を生きることにする。
だから妹のところへ行く。妹は念願叶って託児所を始めることになった。
おれは子供は好きなんだ。おむつ交換も見事にこなすし。おれにできる仕事があるはずだ。
それまで一週間の猶予がある。

旅に出よう。いわば卒業旅行だ。

そうして江崎正臣は急行銀河に乗りこむ。行き先は、大阪。
京都で、途中下車。

      そうだ。京都には「あいつ」がいたんだ・・

そこで二十年探していた幻のレコード、ロバート・クインとジョディ・ハリスの「エスケイプ」を、レコ屋で偶然見つけるのだが、ヨハネパウロみたいなカッコの西洋坊主に先を越されてしまう。
その怪しい西洋坊主バンジャマンに誘われて、教会で一緒にレコードを聴き、落胆し、こんなものを捜し求めていた二十年って・・・で、なんとなく教会に居候することになる。
バンジャマンは見た目以外は全然神父らしくない。
教会は長屋だし、床の間に十字架やマリア像がいっぱい、顔は外人なのにフランス語は喋れず、日本語ペラペラ。
ミサには近所のばあさん連中がいっぱいやってくる。

正臣は神に祈る。
「もしもあんたが信用に値するなら、おれにだって頼みたいことはある。でもそれがわかんねーから、ぐだぐだ言ってるだけだ」
二十年の無為に気付き、宇宙空間に放り出されたような感覚の中。
今やっと現実の時間に追いつこうとしながら、掴みきれない。

キリスト教にとっては、キリストの不在の方が大きい。
では正臣にとっての不在とは?
「あいつ」はいない。いないけど、、
彼の祈りは神への問いかけだ。

神父もまた祈る。
彼は欠落を抱え、偽りを重ね、それを詫びるために祈る。
神を愛するという行為は、あるいは究極の自己愛ではないか、と私は思った。

そして正臣のこの祈りの言葉がいつまでも心に残る。
「悪いな、おれは必死だよ。でも必死って祈ることに少しは似てないか。」

.ア行の作家 絲山秋子 | trackback(0) | comment(0) |


2008/03/09 (Sun) 『聖灰の暗号』を読む

聖灰の暗号 (上)聖灰の暗号 (上)
(2007/07)
帚木 蓬生

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聖灰の暗号 下 (3)聖灰の暗号 下 (3)
(2007/07)
帚木 蓬生

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1198年イノセント三世が教皇位についた翌年、異端者排斥の教令が出された。
その10年後にはカタリ派の信徒たちの大虐殺が起こり、以降120年にわたって続く。

歴史学者の須貝彰はローマ教会の歴史において、異教として迫害されたカタリ派の調査を行っていた。
須貝は市立図書館の収蔵庫で偶然、ある手稿を見つける。
修道士レイモン・マルティの名で記されたそれには、異教徒が杭に繋がれ焼かれる生々しい描写があった。

現代ではカタリ派といっても、過去に滅んだ異教であるという認識しか一般的にはない。
須貝は異端の烙印を押され、闇に葬られたカタリ派の真実を求めて、第一の手稿を元に、さらなる手稿を捜し求める旅に出た。
しかし、彼の周りで不審な死が次々と起こる。

過去に行われた大虐殺の詳細が手稿の発見によって明らかになれば、ローマ教会の権威の瑕疵となることから、ローマ教会の抱える組織の手によるものと判断した須貝は、精神科医クリスチーヌ、ナイフ職人エリックの協力を得ながら、手稿に隠された暗号に挑む。

.ハ行の作家 帚木蓬生 | trackback(0) | comment(0) |


2008/03/07 (Fri) 『東京日記2 ほかに踊りを知らない。』を読む

東京日記2 ほかに踊りを知らない。 (東京日記 (2))東京日記2 ほかに踊りを知らない。 (東京日記 (2))
(2007/11/17)
川上 弘美

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カワカミさんはひらがなの使い方がいい。
そしてちょっと変。

これは小説じゃない。
日記。
で、やっぱりちょっと変。


『勝ったな。』
カワカミさんの住む町には「すみれ荘」という木賃アパ-トがある。
一階のいちばん奥がいつも空き部屋で、郵便受けがかたまってあるあたりの天井からは、大きな動物の白骨がつるしてある。
ある日カワカミさんは、隣町で「かたばみ荘」という「すみれ荘」と似たつくりのアパートを見つける。
だけど「すみれ荘」と比べて、壁はそっけない茶色だし、白骨もつるされていない。
勝ったな、うちの町が、と思いながら、肩をそびやかす。そびやかした後、彼女は自分の大人げなさにちょっとだけ恥じ入り、反省する。でもちょっとだけ。
ほんとうのところ、やっぱり勝ってるよな、すみれ荘、と誇らしく思っているのだ。

『迷いなく購入。』
電車に揺られて、つい見知らぬおじさんの膝の上に座ってしまう。
慌てて謝るが、ひどくどぎまぎしてしまう。
数日後、またしても電車に揺られ、見知らぬおじさんの膝の上に倒れこんでしまう。
前とはちょっと違うタイプのおじさんだ。
同じおじさんだったら、絶対にここで恋が芽生えたのにな。
そう夢想してしまうカワカミさんが好き。

毎日こんな日記をつけている人がいたら、通っちゃいます。
そのくらい 好き。

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